38.ミアの真価


「……アルト、戦闘不能」


 試験官アーサーが無慈悲にそう宣言する。


 ――それによって、ボンは歓喜の笑い声をあげた。



「これで終わりだな! お前はアルトがいないとなんもできねえよな!」


 対峙していたミアに下賤な笑みを浮かべながら、そう告げた。


 それまでミアはなんとかボンの攻撃をしのいでいた。

 だが、それもボンが防御重視で時間を稼いでいたからだった。


 時間を稼ぎ、アルトを消耗させて倒してから、残ったミアをグレゴリーと二人で軽々倒す。

 それがボンたちの作戦だった。


「グレゴリーが倒されちまったのは想定外だったが、まぁいいさ。お前を倒すには僕だけで十分さ」


 ボンはそう言うと、ミアに向き直って攻撃を繰り出す。


「くらえ、“ファイヤーランス”!」


 ボンの攻撃にミアは何とか対応する。


「“アイスウォール”!」


 ミアの渾身の防御スキルがボンの攻撃を防ぐ。

 だが、それもミアが大量の魔力を注ぎ込んでいるからこそ可能なことだった。


 このまま行けば、ミアの魔力が先に尽きるのは時間の問題だ。


「おらおら、“ファイヤーランス”!」


「“アイスウォール”!」


「どうしたどうした、もう少し頑張れよ!」


「……ッ!!」


 ミアはこれまでの試験で一つもエンブレムを獲得していなかった。

 ここで活躍できなければ、騎士になることは不可能だ。

 だから絶対に負けられない。


 それに、アルトが自分と組んだがために騎士になれないなんてことになったら、一生後悔していくことになる。


「――“アイスニードル”!」


 ミアは反撃のスキルを放つ。

 けれど、それはボンの本気の前に軽々あしらわれた。


「“ファイヤーウォール”!」


 ミアの攻撃は、ボンの攻撃によっていとも簡単に防がれる。


「はは! 笑えるぜ! てめえみたいな落ちこぼれが、騎士になれるわけねえだろ!」


 ボンはそう笑い飛ばした。


「――ッ! “アイスブリザード”!」


 ミアがさらにスキルを放つ。だが、今度はボンの攻撃によって打ち砕かれる。


「“ファイヤーランス”!」


 ボンの繰り出した炎の槍が、そのままミアの氷の攻撃を粉砕して跳ね返す。 

 逆にミアの方まで吹き飛ばされた氷の残骸が、ミアの結界を傷つけた。


「無駄なあがきはよせ! これで終わりだ!!」


 ボンは再度“ファイヤーランス”を放つ。

 ミアは無駄とわかっていながらも、“アイスブリザード”を放って迎撃する――


 だが。

 次の瞬間、その場にいた誰しも――ミア自身でさえも想像していなかったことが起きた。


「なにッ!?」


 それまで終始押しっぱなしだったボンだったが、今回は違った。

 ミアのスキルが、ボンのそれに打ち勝ったのだ。


 ミアのスキルレベルが上がっているわけではない。

 だが、急にミアのスキルの力が増したのだ。


「まぐれに決まってる! これでどうだ、“ファイヤーランス”!!」


 ボンは再度同じスキルを放つ。

 だが、今度も、


「“アイスブリザード”!」


 ミアのスキルがボンの攻撃を粉砕する。

 勢いは完全にミアのほうにあった。


「(なんか、力が湧いてくる……!!)」


 ミアはそのことに驚く。

 魔力の精度がいつもより上がっている。

 だからさっきまで力負けしていたボンとも対等に戦えているのだ。


「……だが、僕のほうが魔力は上だ! このまま行けば僕が負けるはずはない!!」 


 ボンの言うことも事実だった。

 ボンの魔力量は、ミアのそれを上回っている。それゆえ技の強さが同じだとしたら、先に倒れるのはミアの方だった。


 だが――


「(魔力の制御がうまくいってる気がする)」


 ミアはそれまで感じたことがない高揚感に包まれていた。


「(今なら行ける気がする――!!)」


 ミアの心の中にそんな自信が芽生える。


「“ファイヤーランス”!」


 ボンはミアの魔力を削ろうとさらにたたみかける。

 だが、それに対してミアはユニークスキルを発動した。


「――“ディスペル・ショット”!」


 ミアのユニークスキル。

 これまで実戦には投入はしてこなかった。敵のスキルに命中させることができなかったからだ。

 だが、魔力制御が高まっている今なら命中させられる気がした。

 そして思い描いていた通りになった。


 ミアの放った光弾がボンのスキルを捉える。

 次の瞬間、ボンの出した“ファイヤーランス”はその場で光となって四散した。


「な、なに!?」


 ボンは自分の攻撃が競り負けたのではなく、無効化されたのを見て唖然とする。


「バカな……!!」


 だが、それが現実だった。


「ありえない! くそッ!! “ファイヤーランス”!!」


 再度スキルを放つボン。

 しかし何度試しても結果は同じだった。


「“ディスペル・ショット”!」


 ボンの攻撃はやはり無効化される。


「あ、ありえない!! どうなってやがる!!」


 困惑し、落ち着きを完全に失ったボン。


「“ファイヤーランス”!!」


 同じようにスキルを放つ。

 けれど、何度やっても結果は変わらない。


「“ディスペル・ショット”!」


 ミアは無効化の光弾を放ち、そして立て続けに得意の“アイスニードル”を放つ。


 光弾が攻撃を無効化したことで、ボンは無防備になりそのままなすすべなくアイスニードルを食らう。


「――うっ!!」


 ボンの結界が粉砕され、そのまま後方に吹き飛ばされた。


「ボン・ボーン、戦闘不能! 勝者、ミア・ナイトレイ/アルト組!」


 ――――試験官の言葉が決闘場に響いたのだった。

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