21 イケメン二人の相性は?


「や、やめてください、二人とも! 会ったばかりなのに、そんな風に喧嘩するなんて……っ」


 心臓がきゅぅっと縮み、声が震えてしまう。二人が弾かれたように姿勢を正した。


「す、すまない」

「す、すまねぇ」


 しゅん、と二人そろって肩を落とす様子は、叱られた大型犬みたいだ。


「きっと二人とも疲れがたまってるんですよ。おまじないをしてあげますね」


 まずは靄が濃いジェイスさんに向き直る。


「目を閉じて、ジェイスさんの大切な人のことを心に思い描いてくださいね」


 私は椅子から腰を浮かせ、神妙な様子で目をつむったジェイスさんのたくましい肩にふれる。


「あなたとあなたの大切な人達に幸せが来ますように……」


 いつもお仕事お疲れ様です、という気持ちを込めて黒い靄を祓う。


「どう、ですか……?」


 目を開けたジェイスさんにおずおずと問うと、ジェイスさんがなぜかうっすらと頬を赤らめて視線を逸らした。


「お、おう……。おまじないをしてるのは何度も見たことがあったが……。実際にやってもらうと格別だな」


「エリ。わたしにもしてもらえるかい?」


 レイ様が身を乗り出すようにして片手を差し出す。


「あ、はい。でも手は……」


「前にしてくれた時は、手を握ってくれただろう? そのほうが、よく効く気がするんだ」


「じゃあ……」


 別に手を握っても握らなくても、祓うのに変わりはないけれど、レイ様が効く気がするというのなら、かまわない。


 差し出された手にそっと指先を重ねると、包み込むようにぎゅっと握られた。


「目を閉じて、大切な方のことを思い描いてくださいね」


 ジェイスさんと同じように、レイ様の肩の黒い靄も祓う。


「どうでしょうか……?」


「ありがとう。とてもいい気分だ」


 にこやかに微笑んだレイ様が、不意につないでいた手を持ち上げ、ちゅ、と手の甲にくちづける。


「っ!?」

「おま……っ!」


 ジェイスさんが椅子を蹴立てて立ち上がる。倒れた椅子が派手な音を立てた。


「てめぇっ! 表へ出ろ! 成敗してやる!」


 ジェイスさんが腰にいた剣の柄に手をかける。その肩にはまた黒い靄が吹き出していた。


「ジェイスさん!? どうしたんですか!?」


 さっき、確かに靄を祓ったはずなのに!


 レイ様の手をほどいて立ち上がり、ジェイスさんへ一歩踏み出そうとすると、ぐいっと手を引かれた。


「ひゃっ!?」


 よろめいた身体をジェイスさんのたくましい胸板に抱きとめられる。


「何の真似だ? 彼女を放せ」


 ジェイスさんと私の間に腕を差し入れたレイ様が、私を引きはがそうと後ろから抱きしめる。


 えっ!? ちょっと何これ!? 私いつの間にサンドウィッチの具になったの!?


「は? お前こそ放せよ。割って入ってくんじゃねぇ」


「二人とも放してくださいよっ! いったいどうしちゃったんですか!?」


 私の声に、二人ともやけにゆっくりと腕をほどく。ジェイスさんの靄は、離れる前にそっと手で祓っておいた。


「二人とも、ヒルデンさんのご迷惑になるんだから、喧嘩なんてしないでくださいね! もちろん、お店の外でもダメですよ!」


「きみが、そう言うのなら……」

「おう……。努力は、する」


 二人ともやけに不満そうだ。まあ、年下の小娘に注意なんてされたら仕方がないだろうけど。


「じゃあ、私はそろそろ帰るので……」


「「送っていこう!」」

 二人の声が見事にハモる。


「ジェイス、きみはいい加減、職務に戻りたまえ。エリはわたしが送っていく」


「はぁっ!? 身元も知れねぇお前に送らせられるワケがないだろ!? 見回りなら送りながらでもできる。エリだって、俺のほうが安心だろ?」


「えっ、いえ……。私は一人で帰るので……」


 素性がバレるから送ってもらうなんて結構です!


「「一人でなんて駄目に決まってるだろう!」」


 またもや二人の声がハモる。


 何この一体感。さっきは相性が悪そうって思ったけど……。

 実はこの二人、滅茶苦茶相性がいいとか……?


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