第18話 夏至前二日~アバダン王国~

よく手入れのされた明るい森だった。風もなく、鳥の声と乾いた落ち葉を踏むあたしたちの足音だけが森の中に響いていた。


 落葉が敷き詰められただけの道なき道はやがて、細い山道に出た。太陽はすっかり高く上っている。


「道、わかるの?」


 迷わず歩くレイをたのもしげに見ながら聞いた。


「う、上から毎日、見ていたから。こ、ここら辺くらいならわかる」


 なるほど。本当にやることなかったんだな。


 そう思ったことは言わなかった。


 しばらく歩くと、森の向こうに赤い煉瓦づくりの屋根が見えてきた。


 かすかな人の話し声が聞こえ、パンの焼ける匂いがあたりにただよってきた。


 とたんにあたしのお腹の音が鳴る。


 そう言えば、朝から飲まず食わずだ。


 ほっとしたせいか、体が一気に栄養補給モードに入っている。


「お、お腹減った?」


「うん」


「い、今は夏至の祭りの準備が始まっているはず……さっき、う、上から見て、何か面白そうなものが……出ていた……けど」


 そう言うと、レイは、歩いていた道から外れて、屋根が見える方へまっすぐ突き進んだ。


 森は急に途切れた。


 足下は削り取られたように土がむき出しになっており、小高い丘を越えて、石畳の町並へとつながっていた。


 町は同じような赤色の屋根と白い漆喰の壁が所狭しと建っている。


 遠くから鐘の音が聞こえ、時計がはめ込んである建物の近くに、何人か飛んでいる人が見える。


 これも慣れると、まあ、なんてことないんだな。と思うから、人間の順応力ってスゴイと思う。


「ほら、あ、あそこになにか、た、食べられそうなものがある」


 レイはそう言うと、土埃をあげて坂を下った。


 土の道から石畳の道に入ると、急に人が増えた。


 緑の肌をした人や、身長50cmくらいの人を人とするならばだが。


 みんなレイのようにゆったりしたネグリジェのような服を着ている。


 色はカラフル。頭からすっぽりフードをかぶっていたり、腰の高い美しい女性が長い髪を透けるような布で巻いたりしている。


 あたしは急にここがアバダンであることを実感した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る