第320話 大学生のはじめて
オムツおじさーん、どこですかー?
傷の治療を終えた俺は、また心の中で呼びかけつつ、ドM歓楽街を歩いていた。
ってか今思ったんだけど、なんかきょろきょろしながらここを歩いていたら、まるで俺がお店を物色してるみたいじゃん!
俺の性癖を満たせる店がなかなか見つからない=俺のドM性癖は常人の域を超えている、つまりドMの中のドM、ドMの神様みたいに見えるじゃん!
「……って、あれ、は」
とその時。
俺はついに見つけてしまった。
オムツおじさんではなく、氷の大魔法使い、マーズ・シィの背中を。
しかもマーズは、偶然この場所にたどり着きましたよ、目的地に行くにはここを突っ切るのが最善だから仕方なく歩いているんですよ感を出しつつも、顔をわずかに動かしてお店の看板をきっちり確認している。
誰に見られているわけでもないのに、なにかを誤魔化そうとしている。
「へぇ、偶然紛れ込んじゃったけど、グランダラにこんなところがあったのね」
誰に聞かせるでもなく、奇妙なつぶやきもしている。
俺はそんなマーズに近づいていった。
「お前はバイト代を握りしめて初めて風俗を予約したけど、実際現地に来たら周りの目が気になって気になって仕方がない童貞大学生か!」
「なっ、その童貞自虐を盛り込んだ特徴的なツッコみは、誠道くんっ」
びくっと立ち止まったマーズが俺の方を振り返る。
……俺ってそんなに童貞自虐を盛り込んだツッコみしてたかなぁ。
「や、やぁ、奇遇ね。私はたまたま、本当にたまたま近道だから、ここを通っているだけよ」
「だから、大学生になれば勝手に彼女ができるから受験勉強に集中しろって先生に言われて、実際その通りにして大学には受かったけど、結局普通にモテるわけなくて、二十歳を迎えて焦って、大学の近くだとバレる可能性があるからってわざわざ遠方の風俗を、バイト代を握りしめて初めて予約したけど、でも『あ、あいつ今から風俗はいるんだぁ』って知り合いでもない人に見られてるのも恥ずかしくて、風俗店の前を無駄に何度も往復して、人通りがなくなった一瞬の隙をついて扉を開けようと試みる、周りの目が気になって気になって仕方がない童貞大学生か!」
「なんかツッコみがより長尺に、具体的になってるのは私の気のせい?」
「しかもそういうやつに限って、周囲のおじさん客たちを見て、『よし、俺はこの人たちより若いし清潔感もあるから、嬢だって俺が相手で喜んでくれるはずだ』って虚しい優越感に浸ってるんだよ! 童貞のくせに! 嬢はプロだから誰が相手でも変わらないのに!」
ま、俺はそういう場所に行ったことがないから知らんけど。
あくまで想像の話だけど。
「誠道くん」
長尺ツッコみをかましたせいで呼吸が荒くなっている俺の肩に、マーズが優しく手を乗せてくれる。
「あなた、その……大変だったのね」
「なんで憐れんでくるのかなぁ! その慈愛のこもった微笑みやめろよ!」
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