第263話 混浴、はだけて、熱すぎて
「ミ、ミライ? どうした? やっぱりのぼせたんじゃないのか?」
改めて問い直す。
顔は星空に向けて、けれど眼球は可能な限り斜め下に向ける。
べべべべべ別にこれは、ミライのえっちな姿を隠し見たいとかそういんじゃないぞ。
そう!
これは酔いを覚ます運動なんだ!
前にどっかで聞いたことがある気がするんだよな。
眼球を動かすと酔いが覚めるって。
だからミライのえっちで危うい姿を見てしまうのは不可抗力なんだ。
あとなんか鼻の中がちょっと熱い。
「のぼせてませんよ。誠道さんと温泉を楽しめる、この時間をもっと大切にしたいですから、断じてのぼせていません。たとえのぼせていても、誠道さんのそばなら、関係ありません」
「なにその根性論。それってのぼせてるって白状してるようなもんじゃ」
「理性がのぼぜてないとできないことって、あると思うんです」
「は? いきなりなにを」
「実は私、ちょっと不安だったんです」
言葉をかぶせてきたミライが、湯船の中で俺の手を取る。
もう片方の手は俺のうち太もものあたりに乗せられる。
やばい、とにかくやばい。
太腿も心もくすぐったいけど、とろんとした瞳で見上げられているから、緊張と、どきどきで、口も体も動かすことができない。
「誠道さんが海でいろんな人の水着姿を追いかけていたのが不安だったんです。こうすることで、一番色っぽいのは私だと記憶に焼きつけてほしかったんです」
「いや、俺は海で水着美女たちを追いかけてなんか」
「追いかけてました!」
「すみません。追いかけてました!」
嘘がすぐばれた。
そんなとこまでミライは見ていたんだな。
自分のスケベ心を見透かされてちょっと恥ずかしいけれど……それ以上に、なんだこのぽわぽわした感情は。
嫉妬されるって、いいな。
お酒に酔って、ミライと肩を寄せ合って、のぼせ合って、本当にいい気分だ。
幸せだ。
「誠道さん。私、今回二人で旅行ができて本当によかったです。福引券をもらうための爆買いをしなければこの幸せはやってこなかった。爆買いをするべきかしないべきか、本当に迷ったのですが……後悔しなくてよかったです」
「いやそこだけは後悔してほしいけどね」
「でも誠道さんだって、日本にいるときはお目当てのアニメの一番くじが出たらロット買いしてましたよね? 確実にラストワン賞まで手に入れるために。それと私の爆買い、なにが違うんですか? 私だって一等を当てる可能性を高めるために工夫しただけです」
「長々説明してもらって申しわけないけど全然ちげぇわ! だって俺は借金してねぇからな!」
「そうですね。すみません。たしかに全然違いました」
あれ? なんか簡単に意見を翻したけど、こういう展開ってもしや。
「誠道さんはしょうがなくですもんね。だってコンビニとかで店員にアニメの一番くじを引きたいって恥ずかしくて言えないですもんね。うわぁ、あの人アニメのグッズ買ってるよぉプークスクスって言われたくなくて、人の目を気にして」
「なんでそうなる!」
やっぱりこうなったか!
「あ、そもそも誠道さんは引きこもりなのでコンビニにいけませんでしたね」
「コンビニくらいいってたわ! ……って」
そう叫んだとき、意識がぐらんとした。
視界が白む。
慌てたような顔のミライが「誠道さん、鼻血!」と言っているのが聞こえたが……ああ、俺の方が先にのぼせきっちゃったのね。
ミライの色香にやられて。
なんて情けない。
「いや酒飲んで長時間風呂入った上でミライが大声出させるからだろ!」
執念で否定ツッコみをしてから、俺は意識を失った。
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