第261話 混浴の前の高ぶり

「くぁあああ! ちょうどいいぃ、きもちいいぃ」


 露天風呂に浸かった瞬間、おじさんみたいな声が出た。


 熱くもなくぬるくもなく、いやちょっとだけ熱い最高の湯加減だ。


 ほんのわずかに硫黄のにおいがするのは温泉の醍醐味だし、外気にさらされている頭が本当に気持ちいい。


 これが頭寒足熱ってやつか。


 知らんけど。


「風呂に浸かって見ると、また違って見えるなぁ」


 空はすでに真っ黒で、いくつか星も見える。


 間接照明でライトアップされた庭は圧巻の一言で、そっと心に寄り添ってくれるような優しさを感じる。


 ししおどしのカコンという音が、夜の空気と湯気の中にとけていった。


「ふはぁ、やっぱり露天風呂はいいなぁ。落ち着くぅ……わけねぇだろうが!」


 だってこの後ミライがこの湯船に入ってくるんだよ?


 露天風呂のリラックス効果も、女子と混浴という概念には敵わなかったみたいだな!


「でも、そろそろ戻ってくるころだよな」


 ミライはいま、フロントまでお酒を取りにいっている。


 この風情の中で飲むお酒は格別だろうけど、俺は今日、お酒の風味やらを楽しむことができるのだろうか。


 なんせミライと一緒に入るのだ。


 味覚なんかに神経を使いたくない。


「誠道さーん。持ってきましたよ。しかも一番いいやつです!」


「おお、それは楽しみだな!」


 部屋の中を見ずに返事をする。


 とたとたとミライの足音が近づいてきて、脱衣所の扉が開いた音が聞こえてくる。


 その後、わずかに衣擦れの音が聞こえてきて、俺の耳は蟻の会話すら聞き取れるほど鋭敏になっていった。


「おじゃましいたします」


 ミライが露天風呂に入ってくる。


 声が、湯気と混ざって本当に色っぽい。


 なんか一気に空間が甘くなったような気がした。


「うわぁ、こうして改めて見ると、本当に風情がありますね。詫び寂びの厳か系ですね」


 感動の声を上げるミライの方を向く。


 ついに裸のおつき合いだー!! 


 …………ってバスタオル巻いてましたよ。


 なんだ残念。


 そういや、コンヨクテンゴクでも同じことがあったような気がする。


 俺もバスタオル巻いてるしそりゃそうか。


 これなら平気だしいつもと同じだな…………いやバスタオル巻いてても平気じゃなかったわ!


 普通にエロいわ!

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