第216話 人類みなユニセックス時代

 その後、ホンアちゃんはミライに話があると言って二人で部屋を出ていった。


「男、男の娘……あの可愛さで、男、なんて……」


 俺はソファにぐったりと寝そべる。


 もうだめだ。


 頭が混乱してオーバーヒートして沸騰しそうだよ!


 いや、沸騰してからオーバーヒートするのか?


 そんな順序なんかどうでもいいよ!


 でも、ホンアちゃんの股のことを考えると、なにが現実でなにが夢なのかわからなくなる。


 もしかしたら、性別について考えることはもう時代遅れなのかもしれない。


 人類みなユニセックス時代突入なのかもしれない。


「って……」


 俺は自分の股の間に視線を落とす。


 なにより俺の心をざわつかせているのは、ホンアちゃんのもっこりとしていたものが、俺よりはるかに大きかったからである。


 かわいさでも、男の象徴の凛々しさでも負けてしまうなんて。


 それから十分くらいたって、ホンアちゃんミライがリビングに帰ってきた。


 俺は二人の顔を見て、嫌な予感を覚える。


 なんか二人とも、自社の命運をかけた契約を勝ち取ってきた営業マンみたいに、晴れやかで誇らしげな表情を浮かべてるんですけど。


 俺の前で二人が改めて顔を見合わせて、がっしりと握手を交わしたんですけど。


 ホンアちゃんが一歩前に出て、軽く一礼した。


「石川さん。これから、すべてをお話しします」


 動画のサムネに書かれている、思わせぶりセリフ第一位を言うホンアちゃん。


 そして、その動画内ではしょうもないことしか言わないのが世の常なのだが、今回は……。


「いやもうホンアちゃんすべてを話してるよね? 実は男です、以上の衝撃爆弾があったら細胞レベルで粉々になるわ!」


「誠道さん。一旦落ち着いてください。いくらホンアさんに大きさで負けているとはいえ、冷静さでも負けてしまったらもう誠道さんには勝ち目がないです」


「これが落ち着いていられるかぁ!! ってなんでミライが大きさで負けてること知ってんだよ! 俺負けてるなんて思ってねぇからな!」


「誠道さん、強がりは…………虚しいだけです」


「どうして悲壮感漂わせんだよ! 涙拭うフリするなっ!」


 鼻水を啜る演技をするミライはもう放っておくことにする。


「ほら、ホンアちゃん、早くつづきを」


 俺はホンアちゃんに早く話をつづけるよう促した……のだが、なぜかホンアちゃんは不服そうだ。


「私が話そうとしたのをぶった切ったのは石川さんだった気がするのですが……。えー、ごほん。とりあえず、彼氏になってほしい理由はお話ししましたよね?」


「ファンが恋人だって言ってるのに、実は彼氏がいるっていう背徳感が欲しい、歌って踊ってる自分を応援してくれるファンに笑顔を振りまきながら、内心で『バカどもが。応援乙』って見下したい、そういうことだよね?」


「……え?」


 ホンアちゃんが目を見開く。


「たしかに見下したいとは言いましたし思ってますけど、さすがに他人をバカって思うのはちょっとひどすぎますよ」


「なんで俺が叱られてんのかなぁ? おかしいよねぇ?」


「それに、石川さんがクズだからって理由が抜けてますよ。イケメンならまだしも、つき合ってるのがあんなクズ男だなんて……とショックを受けるファンの顔を想像したら、もうたまりません!」


「だから俺はクズじゃねぇ!」


「誠道さんはクズではありません」


 ミライが俺をかばってくれる。


 自分の支援する対象がバカにされて我慢ならなかったみたいだ。


「誠道さんはクズではなくて、ただ引きこもりなだけです」


「そのただの引きこもりを、世間一般ではクズと言うのでは?」


「…………」


 ホンアちゃんの指摘を受け、ミライはきまりが悪そうに目を伏せた。


 いや、すぐ負けないで!


 なんか言い返して!


 黙り込んでしまったミライの代わりに、とりあえずなにか言い返すことにする。


「ホンアちゃん。正論を突きつけることは正しくないって、いいかげん学ぼうか」


 言葉はナイフなんですよ。


 使い方を間違えると大変なことになるんだよ。


 俺がホンアちゃんに注意をすると、ホンアちゃんは唇を尖らせたあとに首を傾げて。


「えぇー、どうして私が怒られないといけないのー? それに私ってぷりちーアイドルだから、難しいことよくわかんなーい。きゃぴっ」


「もう遅いからねそんな態度とっても!」


「ちっ」


「いま舌打ちしやがったぞこの腹黒アイドルッ!」


 しかもめっちゃ嫌そうな顔してた。


 とてもアイドルとは思えない顔だったぞ!

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