第215話 ホンアちゃんの正体
「でも、……あれ、どうしてホンアちゃんは、俺のことを引きこもりって知ってるの?」
大きく咳払いをして乱れた空気を元に戻した俺は、ふと浮かんだ疑問をホンアちゃんに尋ねた。
だって俺が引きこもりであることを、ホンアちゃんは知らないはず。
一度だけ目が合いウインクされた。
ただそれだけの、赤の他人だからだ。
「それは、そこにいるミライさんが街で言いふらしているのを聞いたからです。『私のご主人様は根暗の引きこもりなので、特に女性は関わらないほうがいい』と」
「おいミライ、どういうことか説明しろ!」
ミライに詰め寄るも、ミライは平然と。
「説明もなにも、私は事実を述べたまでですが?」
「私も、ミライさんは真実しか述べていないと思います。実際にここに来て確信しました」
ホンアちゃんもつづいた。
「なんでこういうときだけお前らは結託すんの? さっきまであんなに喧嘩してたじゃん」
「むしろ街の噂以上でした。だってあなたは他人の前で自家発電を」
「だからそれは誤解だって言ってるだろうが」
「だからこそ!」
ホンアちゃんが大声で俺のツッコミを遮る。
「私はあなたを選んだのです! 引きこもりなら絶対にバレないはずなんです。友達がいないので言いふらす心配もない! しかもファンを裏切ってつき合ってるのが、そんな超最低なクズ引きこもり男っていうのも……めちゃくちゃ背徳感でぞくぞくしますよね?」
恍惚の表情を浮かべて、ぶるぶる体を震わせているホンアちゃん。
あの、やっぱり俺、机に突っ伏して泣いてもいいですか?
「ってか私、本当は男なので、あなたに本当の意味で恋はしません」
「……………………はっ?」
ホンアちゃん、いま……なんて?
「おと、こ? ホンアちゃん、が?」
俺はホンアちゃんのかわいらしい顔を凝視する。
え、つまり、男って、どういうこと?
こんなにかわいらしいのに、本当に男なの?
なんでその衝撃展開を、なんでもないことのようにさらっと言うの?
「でも、え、だってホンアちゃん、そんなに、女の子らしいのに……」
「当然です。ぷりちーアイドルになるために、死に物狂いでがんばったんですから」
「ごめん、やっぱり俺、ホンアちゃんが男なんて信じられないよ」
「そうですか……。だったら、仕方ないですね。石川さんには、私の秘密を見せてあげます」
頬を朱色に染めたホンアちゃんがゆっくり立ち上がる。
全身が見えるよう、俺の正面に移動すると、おもむろにスカートの裾を掴み。
「……ほら、これがぷりちーアイドルの秘密です」
ごくりと喉が鳴る。
体が緊張している。
「見てください」
そして、ホンアちゃんがゆっくりとスカートをめくると。
股の間が、もっこりしていた。
「お前、本当に二丁目系オカマ男子だったのかよ!」
努力すごいな!
本当に死に物狂いでがんばったんですねぇ!
「ってかそこまで努力してぷりちーアイドルになったのに、なんでファンを裏切るようなこと」
「そうじゃないとダメなんです!」
その悲痛な叫びに、俺は圧倒される。
鬼気迫るホンアちゃんの表情に、体がひれ伏し、なにも言えなくなってしまった。
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