第202話 いつものように
「そういやさ」
猫族の里への帰り道。
俺、ミライ、マーズ、コハクちゃんの四人で森の中を歩いているときにふと思い出して、俺はマーズに尋ねる。
「なにかしら」
「マーズが操られたふりをしていた理由はわかったけどさ、俺たちを本気で攻撃する必要はなかったんじゃないか? コハクちゃんに二人の裏切りの証拠を提示した段階で、本当は操られってないってことを明かしてもよかったんじゃないか?」
だって、テツカさんとハクナさんの裏切りを知った時点で、コハクちゃんはその二人を盲信することはない。
そこですぐにテツカさん……本当の名前はワルシュミーだっけ? を倒しても、今回とほぼ同じ展開になったと思うのだけど。
「誠道くんを攻撃すれば、あとでミライさんからお仕置きを……じゃなかったわ。私はワルシュミーに裏切られる人の気持ちを教えてあげたかったの。私を操れていると完璧に信じさせたかったのよ」
「本音がダダ漏れなんですけど! そんなどうでもいい理由で俺たちは命を失いかけたの?」
「本気で殺そうとは思ってなかったわよ。それに、この問題はコハクちゃんが解決するべきだと思ったのよ。コハクちゃんが自分で、信じたいと思った誰かのために一歩を踏み出すまで待たなきゃいけないってね。そのためにはあなたたちのピンチを見せる必要があった」
「……なるほど。そういうことなら最初からそう言えよ」
「新手のツンデレよ。萌えたでしょ?」
「面倒くさいただのおばさ――」
「なにかしら?」
マーズからギロリと睨まれる。
ドMのくせにおばさんって呼ばれるのは嫌なのかよ。
仕方ねぇから言い直すか。
「ツンデレという言葉を知っているなんて、若者文化にも造詣が深いお姉さんですね。マーズさんは他人のことを思いやれる、大変素敵なお姉さんですね」
「まったく、最初からそう言えばいいのよ」
ふぅ、ようやく満足してくれたみたいだ。
ってかもうひとつ気になることがあるんだった。
「あとさ、マーズさん。どうしてそんなに重ね着を?」
「……え、重ね着? …………そうだったわ!」
マーズはパンパンに膨れ上がった自分の体を見下ろし、いきなり大声をあげる。
「これが一番大事なことなのに、どうして忘れていたのかしら。私のバカ」
「あのぅ、一人で納得しないでくれませんかねぇ」
「ちょっと誠道くん邪魔よ。どいてちょうだい」
「どいてって……ごぐはっ」
俺は、横綱マーズ乃山の突進をモロにくらって押し倒された。
はぁ、こいつ全然他人のこと思いやれてねぇじゃんか。
いきなり邪魔者扱いされたんですけど……って。
この流れ、既視感あるぞ。
これはマーズがミライになにか無理難題を押しつける流れじゃ…………あれ?
取り直しの一番を終えた関取みたいに鼻息荒いマーズが立ち止まったのは、コハクちゃんの前だった。
「はぁ、はぁ、……んんっ! コハクちゃん!」
もうすでに身悶えしているマーズを見て、コハクちゃんは若干――いや、かなり引いている。
そんなのお構いなしにマーズはコハクちゃんの手を取り、顔をグッと近づけて興奮そのままに口を開いた。
「さあっ! 早くいつもみたいにぃっ! 服をっ! 身ぐるみを剥いでいいのよっ!」
…………え?
「さあ、早くっ! いくらでも剥いでちょうだい! そのためにたくさん着てるのっ! 身ぐるみ剥がされプレイを二人でたっぷり楽しみましょう!」
「そんなことのために重ね着してたのかよっ!」
あーあ、さっきまでの感動的な雰囲気が台無しだよ!
「そんなことって、ドMの私たちにとっては大事なことでしょう?」
「しれっと俺を含めるな! 俺はドMじゃねぇ!」
「コハクちゃん、ねぇ、いいでしょう? いいわよね? いいに決まってるわよね?」
「もうそれ脅迫だからな!」
「わかりましたマーズさん。私、マーズさんの服を頑張って剝いでいきます!」
「なんでコハクちゃんはわかっちゃったの!? 脅迫に屈しない強い心を持ってよ!」
「ああっ、もしかして私、マーズさんに必要とされてます? これが私の生きる道? だったら頑張らないとっ!」
「そんなわけねぇだろ! コハクちゃんがこんなやつのために動く必要ないから! 冷静な判断力を身につけて!」
ああもう、なんでこうなるのっ!
コハクちゃんもすぐにネタキャラ化しちゃったよ!
頭を抱える俺の方に、ミライが優しく手を乗せる。
「誠道さん。身ぐるみを剥がされたいならそう言ってくださいよ。私が誠心誠意、真心込めて身ぐるみを剥ぎますから」
「真心込めて身ぐるみ剥ぐってなんだよ! 真心込めたなら身ぐるみで包んでくれよ!」
ああ、もう収集つかないよー。
誰かこいつらの暴走を止めてくれー。
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