第176話 やっと思惑通り

 そんなこんなで、いつものように他愛もないやり取りをしたあと、俺は新必殺技【盾孤燃龍たてこもり】を発動させる。


「顕現せよ! 【盾孤燃龍たてこもり】」


「顕現せよっ、って誠道さん、ぷふっ。ちょっとダサすぎますって。笑わさないでくださいよ。今時中二病患者も笑い転げるほどのダサさですよ」


「そんなに笑うなよ! ちょっと格好つけただけだろ!」


「たしかに、ドM的にも理解できない感性をしているわね」


「ドM的に理解ってなんだよ。そもそもドM的に理解されたくないわ! 理解されなくて光栄だわ!」


 だって俺はドMじゃないからね。


「…………って、うおぉお、なんだこれ……」


 俺はまばたきを繰り返す。


 何度繰り返しても、視界は薄紅色に染まったままだ。


 それもそのはずで、俺とミライを赤い透明な半円状の壁が覆っているのだ。


「すげぇ、本当にけんげ――現れたよ」


 また笑われないように言い直しつつ、胸の奥底から湧き上がってきた感動を存分に味わう。


 ちなみに、なぜ俺だけでなくミライもこの盾のなかにいるのかというと、それがこの盾の発動条件だからだ。




 ――あなたとあなたが心から大切に思う者をあらゆる攻撃から防ぐ盾が現れます。




 それが、この技の詳細である。




「すげぇ。こんな技が使えるようになるなんて……」


 感動で涙が出そうだ。


 たてこもり、っていう引きこもりの現状がそのまま技名になっているのはやっぱり解せないが、あらゆる攻撃を防ぐ盾でしょ?


 俺はこういうストレートな強さを待ってたんだよ。


 それに、あれだけ防御技に不満を表明していたミライも。


「……やっぱり私が大切……いいですねぇ。この技。私好きです」


 とうっとりと感動がまじったような目で、俺たちを覆う赤い盾を見上げている。


 うっとりしすぎていて声がふにゃふにゃで、聞き取れない部分もあったが、ミライもこの技を気に入ってくれたことはわかったのでオールオッケー。


 ほんとさ、さっきまでこの技は誠道さんには適さないとか言っておきながら、この反応。


 ミライって、もしかしてツンデレだったのか?


「……っと、すみません。取り乱しました」


 ミライがスカートの裾を払いながらぴしっと居住まいを正す。


「それではマーズさん。この盾に、弱い攻撃から順に加えていってください…………って、マーズさん?」


「私だけ外に置いてけぼり……ああんっ! ……と、失礼。この盾に攻撃していけばいいのよね」


 マーズはごほんと咳払いをする。


 どんなことでも自分が責められていると解釈できる、柔軟性と楽観性を兼ね備えたポジティブ思考な頭が本当に羨ましく思えてきたぞ。


 その思考回路を解明して販売すれば、世の中の引きこもりは全員ポジティブになって外に出られると思う。


「じゃあ、まずは……」


 マーズが弱い技から順に発動していく。


 俺の心の片隅には、どうせこの盾本当は弱いってオチだろ? という不安が残っていたが、マーズが徐々に攻撃を強いものにしても盾は一向に壊れない。


 ひび割れすら入らない。


「じゃあ次は……【氷の終焉殺劇アイスジエンド】!」


 澄み渡る青空の下に巨大な魔法陣が発生し、遮るものなどなにもないはずの草原が真っ黒に染まった。


 氷柱が無数にぶら下がった巨大な氷が頭上から落ちてくる。


 以前、マーズがこれを発生させたときは、【火鬼殺燃龍奥義ひきこもりゅうおうぎ炎舞龍夢エンブレム】を連発させてようやく破壊できた。しかも、五升・リマク・李男の【賛美宣言ドーピング】がかかった状態で、だ。


 さて、今回はどうだろうか……。


 っていうか、もし盾が壊れたら俺たちこのまま押しつぶされちゃうんじゃ……。


「……おおぉ」


 心配は杞憂だった。


 巨大な氷の塊と盾が衝突した部分から、シュワァアアという音が聞こえ、氷が蒸発していく。


 盾と接触した部分の氷がみるみる溶けていき、まるでドーナツのように大きな穴が開いた状態で、巨大な氷は地面に落下した。

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