第171話 いま、なんでもって言った?
俺は、キアラちゃんとミライの近年まれにみる世紀の大凡戦を引き分けとした。
だって、どっちも俺を喜ばせようとしていなかったんだもの。
縛ったり、びりびり椅子に座らせたり、マンティコア攻めしたり。
…………え?
キアラちゃんのときもミライのときも電撃を喰らっていたじゃないかって?
つまりそれは俺が興奮していないと嘘をついていたことの証明になるんじゃないかって?
いや、絶対にあの椅子が壊れていただけだ!
「引き分け……私が、この優秀な私が、誠道さんのことをなんでも知っているこの私が、あの女と引き分け……」
キャバクラから出て宿屋街へと向かっていると、肩を落としたミライがぼそぼそと負け惜しみをつぶやきはじめた。
そんなに悔しいのか。
ちなみに、マーズは俺を苦しめつづけた拷問椅子を譲ってもらえないか、キャバクラ店に必至で掛け合っていたので置いてきた。
マーズはどこまでいってもマーズなので、逆に安心するレベルだ。
「引き分け……なんて、そんな、引き分け…………」
「俺のことをなんでも知ってる? バカ言え。俺だって俺のことをなんでも知らないんだから」
ぼそぼそと嘆きつづけるミライに、慰める意味も込めてそう声をかける。
俺が勝負を引き分けにしたわけだしね。
これくらいの気遣いは見せておかないと。
「でも、私は誠道さんが中学のとき、体操服から透けて見えるブラジャーに興奮していたことも、母親が取り寄せていた女性服カタログの下着ページで自家発電して――」
「なんでそんなことだけは本当に知ってるんだよ! いや本当じゃないわ! ミライの妄想だわ!」
あ、あぶねぇ……。
あやうく勢いに身を任せて、嘘の情報を肯定するところだったぜ。
こうやって冤罪がうまれていくんですねぇ。
……ほ、本当に俺はしてないからね!
「妄想ではありません。現に私は誠道さんが知らない誠道さんを知っていますから」
「ほぉ、じゃあそれを言ってみろ」
「誠道さんは自分がドMだということをまだ知らない……いや、これはただ恥ずかしがっているだけでした」
「違うから! ドMじゃないから! 恥ずかしがってる以前の問題だから!」
「恥ずかしがっていないのなら引き分けになった理由がわかりません!」
立ち止まったミライが悔しそうに俯いて、両の拳を震わせている。
その声には悲しみの色も混ざっている。
「私は不満です。悲しいです。誠道さんのことをなんでも知っていたいんです」
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