第167話 息ピッタリ?

「キ、キアラちゃん?」


「はいぃ、なんですかぁ? お酒頼んでくれるんですかぁ?」


 俺が話しかけると、キアラちゃんはすぐにおっとりモードに戻る。


 やっぱり、うん。


 女って女優で怖いね。


「そ、そうだね、せっかくだし頼もうか」


「やったぁ、ありがとうございますぅ」


「へっ、まったく、こんなバカキャバ嬢と会話していたら、ただでさえバカでエロ猿な誠道さんがもっとバカになってしまいます。ってか誠道さんは引きこもりで高校にいかなくなった、いわば中卒。そんな人に賢そうだなんって、やっぱり人を見る目がないんですね」


「ちっ、おいそこの女、客だと思ってつけあがんなよ」


「キアラちゃん? 俺、キアラちゃんの趣味が聞きたいなぁ」


「えっ? ……あっ、私はぁ、お料理を作るのが好きでぇ」


「お料理? どうせ作ってもいないくせに。見栄を張る人って格好悪いですよね。こんなことなら優秀な私と会話していた方が百倍、誠道さんのためになりますね」


「おいてめぇいい加減表へ出ろぉ!」


「もう! せっかくキアラちゃんがお世辞でも俺を気持ちよくさせよう、喜ばせようとしてるんだから、わざわざ口を挟むなって!」


 俺はミライに注意する。


 キアラちゃんが怒りでぶりっ子モード保てなくなってるからね。


「そうですよ! 私はプロのキャバ嬢として、誠道きゅんの言う通り、お世辞を言って誠道きゅんを喜ばせようとしているんです!」


「それをキアラちゃんから言われるとショックなんだよなぁ。ってか本物のプロはお世辞とか仕事ですからとか言わないと思うんですけど……」


「さっきから引きこもりのくせにうるせぇなぁ! おっぱいを押しつけてやったんだから鼻血出して倒れとけよ! 引きこもりなんだから口という扉を閉めて、声も引きこもらせて黙っとけよ!」


 ものすごい剣幕のキアラちゃんに凄まれる。


 だからさ……俺は客だよ?


 どうして俺が怒鳴られてるんですかねぇ。


 キアラちゃんを庇ってあげたつもりなんですけど。


「ああっん! ミライさんに言葉責めに合っているキアラさんも、キアラさんに言葉責めされている誠道くんも羨ましぃ! これは脳内で主語をマーズに変換しなければ!」


 ……なんかもうカオスですね。


 とりあえずマーズは放っておいても問題はないから……って、このカオスな状況下で黙ってタバコを吸っているリリルちゃんすげぇ肝座ってて格好いいなぁ……。


 いや、お前はお前でちゃんと接客しろよ!


「感情をすぐ表に出すなんて、キアラさんはバカ丸出しじゃないですか。冷静って言葉を知っていますか? それに私の方が誠道さんを喜ばせられますからね。しかもあなたみたいな低俗なお世辞じゃなくて、本心で」


「上等だコラァ! だったら、この引きこもりをどっちが喜ばせられるか勝負だ」


「望むところです!」


「ちょっと二人とも落ち着い――」


「「引きこもりは黙っててください!」」


「は、はいっ!」


 ものすごい迫力に、心臓をささげる体制を取ってしまったが……これってやっぱりおかしいよね?


 ミライとキアラちゃんは、これから俺を喜ばせる勝負をするんだよね?


 その相手に対して声をそろえて怒鳴るとか、本当にあなたたちは喜ばせる気があるんですか?

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