第151話 責任

「無駄なあがきを。【氷の氷柱爆弾・連撃アイスエンドボマー・リサイタル】」


 マーズは攻撃の手を緩めない。


 彼女の前に顕現した魔法陣から、ネコさんを爆撃した氷の爆弾が次々に飛んできた。


 聖ちゃんはアイスゴーレムを食い止めるので精いっぱいだし、今度こそもう終わったか。


「俺たちだっているんだぞ! お前ら! 【無謀な鉄壁スクラム】だっ!」


「「「わかりました!」」」


 今度は、心出たちが窮地を覆そうとしてくれる。


 俺たちから少し離れたところに、心出、光聖志、真枝務、五升が肩を組んで立ちはだかった。


 いや、そんなところで突っ立てても意味ない――


「俺たちでなんとしても誠道くんとミライさんを死守するんだっ! 【攻撃吸収ファインセーブ】ッ!」


 心出たちの体から、ワールドカップ決勝のPK戦に臨むキーパーのような迫力が漂いはじめる。


 俺に向かって飛んできていた氷の爆弾が、すべて心出たちの方へ吸い寄せられていった。


「お前らがサッカーボールという名の攻撃に反応してファインセーブするんじゃないんかいっ! ……って、吸い寄せられてるってことは」


 氷の爆弾が次々に心出たちにぶつかって爆発する。


「心出っ! なにやってんだよ!」


 吸い寄せるって、俺の代わりに攻撃をくらってるだけじゃねぇか!


「心配するなっ! 俺たちが気絶しなければ、あいつの攻撃は誠道君には当たらないっ」


 轟音が止んだあと、ボロボロの心出たちが現れる。


「四人で【無謀な鉄壁スクラム】をしているから、防御力も上がっている」


「そういうことを言っているんじゃ」


「大丈夫だと言っているだろう! 俺たちは、誠道くんの力になると約束したのだから!」


 心出が叫び終えたあとに、氷の爆弾の第二陣が心出たちに襲いかかる。


 何発爆弾を受けようと、心出たちは倒れるそぶりすら見せない。


「こんなもの痛くも痒くもない。俺たちには守り通す責任があるのだから!」


「おいマーズ! こんなことはもうやめろ!」


 聖ちゃんが、心出たちが、体を張って俺たちを守ってくれている。


 喉の奥から血の味がした。


「うるさいっ! 黙れぇ!」


「こんなこと、お前の愛したネコさんは望んでなんか」


「ネコたんはもういないの。だから私は……こんな、ネコたんのいない世界なんか、ネコたん以外の人間なんか、どうなったって」


「……我は、ここにおる」


 ネコさんの声がした。


「我はずっと、マーズたんのそばにおる」


 ネコさんがマーズを後ろから抱きしめていた。


最強の締愛コブラツイスト】などかけず、ただぎゅっと抱きしめていた。


「もういいのにゃ。マーズたん。よく頑張ったのにゃ。もう、いいのにゃ」


「やめてっ! 違うっのっ、私は、だってもう私の愛した人は…………この世界にはっ」


「マーズたんの性感帯は……右太ももの内側にゃろ?」


 その瞬間、マーズの目から大粒の涙があふれた。


 って、せいかんたいっ?


 いきなりそんな発言されてもこま――


「どうして、……私の性感帯を、知っているのは……」


 氷の爆弾による攻撃が止まる。


 アイスゴーレムがガラガラと崩れ落ちる。


「我が、マーズたんの愛したネコたんだからにゃ。もう、強がる必要はないのにゃ」


 ネコさんの手が、マーズの性感帯である右太ももの内側に伸びていく。


「……ああっ。そ、んんっ、こはっ!」


 マーズが身悶えして悦ぶ。


「その責め方っ、指遣い……っああっ! あなた、本当に、ネコたん、なのっ?」


「我以外に、公衆の面前でマーズたんの性感帯をばらして、しかもそこを責めるようなドSがおるかにゃ?」


「いいえ、いないわ……んんあっ! ネコたんっ! あなたはネコたんなのねっ!」


 マーズがネコさんを力一杯抱きしめる。


「ネコたん、ネコたん!」


 あの、熱い抱擁交わしているところ悪いんですけど、ここまで死に物狂いで頑張ってきて、みんなが命をかけて戦ってきて、最後の最後が性感帯ってどういうことだよ!


 ……でも。


「ネコたん」


「マーズたん」


 二人が幸せそうだから、ま、それでいいか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る