第118話 みんなの怒りが爆発しました

side美玖


「おはようごいざいます。」

「おはよ〜!いや〜良い天気だね!まさに撮影日和だ!Mikuちゃんもそう思うでしょ?」


 あたしが挨拶をしたのは、新しいマネージャー。

 へらへらした感じの若い男の人。

 ・・・ジロジロといやらしい目を向けてくる。


 ・・・あたしは、あんまり好きじゃない。


「今日はちょっと遅くなりそうだから、家には連絡しといてね〜?」

「・・・撮影だけじゃないんですか?」

「え?・・・あ、まぁ、うん。ちょっと、ね?」


 ・・・これはやっぱり確定、ね。

 あ〜あ・・・恩を感じてたんだけどなぁ・・・


「・・・わかりました。」

「あ、そう?じゃ、中に入ろう!先方がお待ちだよ?」


 あたしと新しいマネージャーの人は中に入っていく。

 このビルは、今日撮影する大手のアイドルグループの事務所が所有している撮影専用のビルらしい。


「お〜!Mikuちゃんじゃ〜ん!こんちわ〜!」

「相変わらず可愛いね〜?」

「・・・おはようございます。本日はよろしくお願いします。」

「硬いね〜?もっと気楽に行こうよ気楽にさぁ?」


 馴れ馴れしく近寄ってくる例のアイドルグループの人たち。

 真実を知った今、こいつらの顔なんて見たくもない。

 けど、裏で泣いてる人達が沢山いるのも知った今、こいつらがのさばっているのは我慢出来ない。


 撮影は進む。

 ここまではいつも通り。


 休憩をはさみつつ、撮影を終える。

 

「それではこれで終了です。お疲れ様でした。」


 カメラマンさんの挨拶で撮影は終了。


「さて・・・と。」


 あたしは帰り支度を始める。

 

「あ、Mikuちゃん?着替えはこっちでね?」

「ロッカーに着替え入れたままなんですが。」

「あ、その・・・と、取り敢えずこっちへ!さぁ!」


 しどろもどろのマネージャーの言葉に、訝しみながらも来た時に着替えた所とは別の所に移動する。

 この人、この後わたしがどうなるのかわかっているわね・・・腐ってるわ。


「じゃあ、僕はこれで・・・」


 マネージャーはそそくさと立ち去って行く。


 着替えの場所に入ると、そこは奥に座敷、窓は・・・無い。

 出入口は一つ、か。


 わたしは、ジェミニさんに貰ったお守りを握りしめる。


「おお〜!いるねぇ?」

「あっはは。さっきぶりMikuちゃん?」

「・・・なんですか?」


 わたしがズカズカと入ってきたアイドルグループの男たちを睨みながらそう言うと、男たちはいやらしく嗤った。


「え〜?わかんない?」

「なんだぁ。Mikuちゃん処女じゃないんじゃないその反応?」

「自分がどうなるのかわかってるよねそれ?」


 男たちは、出入口のドアに鍵をかけた。

 わたしは、お守りに魔力を通す。


 さて、後は時間稼ぎね。


「・・・何故、閉じ込めるんです?」

「ん?決まってるんじゃん!お前、今日から俺たちのだから。」

「今日からはお前、人じゃねーからな?」

「・・・警察に言いますよ?」


 酷い言葉に、わたしがそういうと、男たちはゲラゲラと嗤い始めた。


「ばっかだなぁ!そんな事できっこねーっての!」

「お前の事務所はうちのいいなりだかんな?それにウチの事務所からも大金払ってるしなぁ?壊さなきゃ何やってもいいってよ?だから、助けもコネーぞ?お前のジャーマネもお前と後でヤラせてやるって言ったら喜んで尻尾ふりやがったしな?」

「そーそー!それに、お前のはずかし〜い写真や動画もいっぱい撮らせてもらっから。それ流れたら、人として終わっから!それでも良ければ好きにすればぁ?」


 ・・・ホント最低ね。 

 あのクソマネージャーもね。

 瞬とは大違いだわ。


「あと、ウチの事務所、ヤクザともコネがあっからさぁ?逃げたら、お前の家族も追い込むかんな?」

「ま〜ま〜。どーせわけわかんなくなっちまうって。コレ使ったらさぁ?」


 ポケットから何かの瓶を取り出した。

 ・・・薬?


「ま、なんでもいーか!さて、そんじゃ・・・」


 男たちが、わたしに近づいて来る。

 正直、怖い・・・でも、こんな時の為に!


「脱ぎ脱ぎしましょうね〜って、おい。なんだこの手は。」


 わたしは、掴もうとした男の一人の手を握る。


「あんた達、本当に最低ね。このクズども。」

「ああ!?肉便器の分際で偉そうな事言って・・・ぐっ!?て、てめぇ離せ・・・イテテテ!?離せ!離せぇ!!」


 魔力を込めて、思い切り握る。

 メキメキと骨が軋む音が鳴る。


 わたしの力ではまだ握りつぶせるほどの魔力は無い。

 でも・・・


「えい!!」

「ぐほぉ!?」


 男の腹を思い切りぶん殴った。

 倒れ込む男。


「な!?」

「て、てめぇ誰に向かって・・・げふぅ!?」


 もう一人近くにいた男の顔を同じ様に殴った。


「こ、こいつ!?」

「なんかやってるのか!?」

「いいから押さえつけろ!ぜってーゆるさねぇ!!」


 一斉に襲いかかってくる残りの三人。

 わたしにしがみついて動けないようにしてくる。


 わたしは、全身に魔力を行き渡らせて、


「え〜い!!」


 振り回すように動く。


「おわっ!?」

「うおっ!?」

「嘘だろ!?」


 しがみついていた男達の手が離れ、転げ落ちる。


 わたしは一歩転んでいる男に近づき、


「ぐほっ!?」


 腹を蹴り飛ばした。


「な、な、がっ!?」


 もう一人の顔を踏みつける。


「あとは、あんただけよ。」

「み、Mikuがこんなに力があるなんて聞いてねぇぞ!?て、てめぇ!俺たちに手をだしたらどうなるかわかってんのか!!あ”あ”!!」

「知らないわよそんなの。それよりも、あんた達はこれで終りね。あんたの事務所もね。」

「な、そんなのもみ消して・・・」

「出来れば良いわね?それよりも・・・今まであんた達がしてきた事は全部明るみに出るから楽しみにしてると良いわ。」

「な、何!?そんなはずは・・・」


 その時だった。


 ドォン!

 ドォン!!


 遠くから響く振動と轟音。


 みんな、来てくれたのね!


「な、なんの音だ!?」

「破滅の音よ。あんた達の、ね。」


 轟音に紛れて、人の悲鳴も聞こえる。

 大騒ぎしているみたい。


 段々と振動や音は大きくなっているわ。


「ひぃ!?一体なんなんだ!?」

 

 音や振動で、わたしが気絶させた男たちも目を覚ましたようで、痛みに呻いている。


「こ、こんな事してただで済むと・・・」


 ドカンッ!


「「「「「ひぃっ!?」」」」」


 ドアを突き破って、人の身体が放り込まれた。

 あ、新しいマネージャーの人だ。

 血まみれで泡吹いて気絶してるわね。


「美玖ちゃん大丈夫!?」

「瞬!」


 部屋に瞬達がなだれ込んできた。


「な、な、なんだてめぇら・・・うぉ!?すげーいい女だ!」


 美嘉ちゃん、ジェミニさん、リリィさん、美咲ちゃんに見惚れてる。

 

「あら?そういうあなた達はボロボロじゃないの。」

「そ、そーなんだ!そこのメスゴリラにやられたんだ!助けてくれ!」


 ・・・なんだとこのクソ男め!


「わかったわ。助けてあげる・・・その腐った欲望からね。」

「へ?」


 グシャ!!


「ギャアアアアアアアアア!?」


 ジェミニさんが男の一人に近づくと、思いっきり・・・アレを踏んづけた。

 うわぁ・・・ぐしゃっていったわ。


「良いねそれ。じゃあ、あんたも。『動くな』。」

「ひぃ!?やめ・・・な、なんで身体が動かない!?ガアアアアアア!?」


 美嘉ちゃんも躊躇無しね。

 こわっ!


「はしたないですが、これも淑女として、女性の敵は排除しなければいけません。お覚悟を・・・結界術、『不動』」

「たすけ・・・ああ!動けない!たすけ、助けて・・・あぎゃああああ!?」


 リリィさんもにっこり笑って思い切り足を振り下ろしてた。


 あ、瞬が股間を押さえてブルブルしてる。

 

「お、お前ら!こんな事したらどうなるかわかってんのか!?うちの事務所は・・・」

「あら?あなた方の事務所の天下は、今日で終わりですよ?」

「はぁ!?なに言って・・・」

「あなた方は、『周防』の身内に手を出したのですから。」

「スオウ?すおうって何・・・っ!?す、周防ってあの周防財閥の・・・嘘だ!」

「本当ですよ。この、周防美咲の名にかけて断言しましょう。」

「そんな・・・」

「と、言うわけで、私も瞬さんを共に支える仲間として、覚悟を見せねばなりませんね。あなたを断罪します。これまでの罪を数えていて下さい。『フリーズ』」

「な、な、やめ・・・動けな・・・ぎゃあああああああ!?」


 おお、美咲ちゃんも容赦ないなぁ。

 でも、どうして動けなくなったんだろ?


「だいぶ上手くなったわね。」

「はい。とても綺麗な拘束魔法でした。魔力の使い方を知らないこちらの人であれば、動けないでしょう。」

「ありがとうございます、師匠方。」


 あ、魔法か!

 凄いなぁ美咲ちゃん。

 もう、つかえるようになったんだ。


「さて、最後の一人よ。どうやらリーダーみたいだし、美玖?あんたがやりなさい?」


 美嘉ちゃんがわたしにそう言った。

 うん。

 こいつらにめちゃくちゃにされただろうモデル仲間達の為にも許しちゃだめだ!


「や、やめ・・・許して・・・もうやらないから!」

「・・・駄目。許さない。一生後悔してなさい。」

「ひぃ!?やめ・・・」


 意を決して思い切り足を踏み下ろす。


「ギャアアアアアアアアアアアア!?」


 うわっ、凄い感触。

 ぐにゅっていうか、ごりっていうか・・・うん、気持ちの良いものじゃないわね。


「・・・怖い・・・」


 あ、瞬が小動物みたいに震えてる。

 良い子良い子してあげなきゃね。


 大丈夫だよ瞬。

 ・・・瞬が悪さしない限り、ね?

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