閑話 絶望の世界 side過去に王であった者

「いたぞ!印持ちだ!」

「そっちに行くぞ!!」

「逃がすな!狩れ!」


 ・・・荒ぶる声が聞こえる。

 あれは全て儂を殺そうとする者共の声だ。

 

 ・・・何故こうなってしまったのか。

 

 儂は、あの時を思い出す。

 あの、全てがおかしくなってしまった時の事を。







「待て!リリアーヌ!貴様だけ逃げる気か!!」


 儂の目の前で、こちらを嘲笑わらいながら消えていく娘とその騎士。

 そんな儂達に向けて放たれる超常なる存在の言葉。


『さて・・・世界に生きる者よ。印を持つ者の排除に選択肢は2つある。改心させるか、それともその命を摘み取るのか、だ。宣言しよう。私は、どちらを選択したとしても、咎めること無く、約束を履行しよう。改心した場合は、額の印は消える。命を取った場合も、遺体からは印が消える。但し、命を摘み取る方にはリスクがある。私が設定したある基準を越えた場合、殺害した者にも印がつく。だが、心配する事は無い。ただ殺害して排除するだけであれば印はつかない。その基準の内容は伏せるがな。ゆめゆめ忘れぬ事だ。』


 圧倒的な重圧を込めながらの声。

 震えが止まらない。


『そして愚かなる者共、その代表者たる愚王よ。貴様らは、後悔し、眠れぬ夜を過ごすがいい。世界の全ては貴様らの敵だ。全ては己の愚かさが招いた事、己らの愚かさを呪うが良い。』


 儂の何が愚かだったと!?

 わからぬ!わからぬ!!


『一つだけ助言しておく。形だけの改心など無駄だ。私が定めた基準を満たさぬ限りはな。基準についての詳細は伏せる。改心したら、自ずとわかるだろう。』


 基準!?

 どうすればいいのだ!?

 どうしたら!?


『もし、全ての愚かなる者が排除された時、私はまたこうして皆に伝えよう。それではな。』

「お待ちくだ・・・!」


 圧力が消える。

 超常の存在は消え去ってしまった。

 

「王よ!我々はどうしたら・・・」


 宰相が情けない顔をして問いかけてくる。


「王よ!我々もどうしたら・・・剣が・・・盾も持てません・・・鎧を着たら、動けません・・・」


 騎士団の親衛隊長が倒れたままそう叫ぶ。

 恩恵の消失・・・というヤツか。

 身を護る事もできぬというのか!?

 儂等が何をしたと・・・


「王よ!」

「王よ!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「王よ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「う、うるさい!!少しは自分で考えぬか!!」


 儂は叫ぶ。

 儂だって混乱しているのだ!

 まったく、役に立たぬ者共・・・


「お、王よ!」


 一人の兵士・・・鎧も武器も持っておらぬが、兵士が飛び込んできた。


「うるさいと行っただろうが!不敬罪として処刑・・・」


 しかし、その兵士は、顔面を蒼白にしていたので、言葉を止める。

 何があった?


「民衆が・・・印を持たぬ民衆が城に押し寄せています!」

「な、何だと!?」

「お、王を出せと・・・全ての印持ちの城勤めを出せと・・・」


 震えながら報告する兵士。

 

「そ、そんな平民など、殺して・・・」

「わ、我々は!!」


 そこまで言ったところで、その兵士は涙ぐみながら遮った。


「我々は・・・もう、武器も防具も持てず、子供からの攻撃ですら骨折してしまいます!すでに、何人も・・・排除、されています!!!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 その、心からの叫びに、騒然となる。

 こ、こ、このままでは・・・儂らは・・・


「こ、こうしてはおれぬ!すぐに脱出する!」

「お、王よ?奥方やお世継ぎは・・・」

「知らぬ!王族の・・・儂さえいればどうとでもなる!すぐに逃げるぞ!」 

「っ!!はっ!」


 取るものも取らず、すぐにそこにいる全員の印持ちで逃げ出す。

 印の無い者は、それを呆然と見ていた。


「何故このような事に!?儂は王だぞ!?この世界の支配者だ!何故!?」


 逃げる間に自問する。

 しかし、身体は恩恵が無くなった事により弱くなっており、すぐに息が枯れる。

 そのせいか、何人も犠牲になったが、逃げ出すことが出来た。






 その後は最悪だった。

 天候は常に不調。

 だが、そんな中でも印の無いものや、他種族の者が徘徊し、印持ちを排除している。


 一人、また一人とこちら側の人間は消えていき、つい先日宰相も殺された。

 

「お前の・・・お前のせいだ!この無能!この愚王!この・・・ぎゃああああああああああ・・・・」


 宰相の叫び声が耳から離れぬ。

 いずれは儂も・・・嫌だ!!

 死にとうない!!






 あれから、どれくらいたったかわからない。

 今、儂は襤褸布ぼろぬのを身に纏い、スラムにおる浮浪者のような格好で、息を潜めている。

 もう、何日もまともなものは食べていない。


 その辺に生えている雑草や、虫を食べて命を繋いでいる。

 こんな状況で出来ることは、自問自答する事だけ。


 ・・・儂は・・・儂は・・・魔王がいなくなったと聞き、平和になったと思った。


 余分なモノが消え、不安に怯えることは無くなったと思った。

 だからこそ、国を豊かにしようと・・・勇者を召喚し、世界に一番貢献した我が国こそが覇者にふさわしく、そして儂の元で人族を統一しようと思ったのだ。

 世界に、儂の名前を刻み込もうとして。 

 世界を救った勇者のように。

 あの、子供のような見た目の癖に、誰よりも強靭な心をもったあの者のように・・・


 ・・・だが、それを他の国に反抗され・・・戦争になり・・・


「は、はは、ははは、はははは!」


 口から、勝手に重い笑い声が漏れた。

 そうか、そうだったか、全ては・・・儂の・・・儂自身のせいだったのか・・・

 勇者に嫉妬し、他者よりも己の利を求めた。

 その為に、世界を救った大賢者や愛娘、聖騎士すら殺そうと・・・


「はははははははははははははは!」


 自業自得!

 まさに愚王だ!

 世界全てを巻き込む愚者の王!


 救えぬ!

 なんて救えぬのだ!


 天候は常に荒れ、草木はそのせいで育たず、人が人を狩る世界!

 これを・・・世界をこんな状況にしたのは・・・この儂!!


「いたぞ!!」


 儂の高笑いで気づいたのか、様々な人種・・・人も、亜人も混ざりあった集団に囲まれる。

 ・・・皮肉なものだ。

 儂を・・・印持ちを排除するために、全ての人種が協力する引き金になるとは・・・


「・・・一応、聞いておく。改心はしていないな?」

「・・・見ての、とおりだ。」


 忌々しい事に、この印は額を隠しても、その隠したモノを透過して光る。

 隠しようが無いのだ。


「わかった・・・改心した者を殺害したり、殺しに酔ってきたりすると、印持ちになっちまうからな・・・一思いに、殺してやる。」


 その言葉を聞き、頷いた。

 実は先程、改心したかどうかの判断基準には気がついていた。

 何故なら、その事に気がついた時、声が聞こえたからだ。


 あの、超常の存在の。


『・・・気が付いたか。その印は、自らの過ちに気づき、この世界に奉仕すると心に決めた場合のみ、削除される。だが、貴様のモノはそうでは無い。貴様は全ての元凶である。その責任を取らねばならない。』


 ・・・是非も無い。

 もう、抗う気も起きない。

 全ては自業自得。

 ならば、せめて最後は・・・


「聞け!儂はこの世界の王である!頭が高い!儂を王と知って刃を向けるか!」


 歴史上最低の愚者、愚者の王として、責任を取らねばな。

 ・・・死んでいった者達のためにも。


「何!?貴様が・・・貴様のせいで!」

「この愚王が!」

「どれだけの人に迷惑をかけてるんだ!このクソ野郎!!」


 今後、儂と同じ過ちをする者が現れぬように。

 道化となろう。

 後世に伝わる愚者として、な。


「やかましい!この世界はこの世界の王たる儂の・・・」


 さらばだ。

 我が娘リリアーヌ。

 すまなかった・・・儂が愚かだった・・・

 去り際に見せた笑み。

 あの時は嘲笑だと思ったが・・・

 今、改めて思い出すとそうでは無かった。

 涙ながらに微笑むその表情・・・あれは・・・惜別のもの。

 もう、二度と家族に会えない事への。

 ・・・すまぬ。

 お前は、それほどに優しかったと言うのに・・・


 勇者のいる世界に行ったのだろう?

 せめて幸せを祈っておるよ。


「やれっ!!」

 

 一斉に切りつけられる。

 血しぶきが舞う。

 意識が段々と喪失していく。


 ・・・神よ。

 最初で最後に真摯に祈ります。

 せめて、儂で最後にしてくだされ・・・

 儂が、悪かったのです・・・


『・・・その願い、聞き届けよう。そなたは、最期に正しい選択をした。』


 ああ、これで安心して逝ける・・・

 儂の意識は完全に消え去った。


******************

これで、第4章も終わりです。

さて、次の章は夏休みに突入します。

瞬を取り巻く状況が変わってから初めての長期休暇。 

どうなるのか、楽しみにしていて下さい。

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