第38話 新生魔王軍は強力すぎてなすすべがありませんでした

 リリィやラピスが来てから、一週間位がたった。


 僕は・・・あれから、いつも以上に眠さを我慢して生活しているんだ。

 もっとも、アルバイトがある前日は、例によって魔法で眠らせてもらってるから、翌日は疲れが取れて元気・・・なんだけど・・・


「・・・?リリィ?ラピス?どうしたの?」

「っ!!い、いえ!なんでもありませんよ!?ねぇ!?ラピス!?」

「あ、ああ!姫様の言う通りだ!何もない!何もないぞシュン!ははは!」


 リリィ達が来てから、初めてアルバイトに行く日の朝、リリィとラピスの様子がおかしかったから、聞いてみたんだけど、二人共僕と目を合わさず、うつむき加減だったんだよね・・・なんか顔も赤かったし・・・

 

 いつも、アルバイトの日はみんなもそうなんだけど・・・なんだろう?

 僕が寝てから、みんなで何かしているのかな?


 ちなみに、今日、リリィとラピスは、うちの高校に留学生としての手続きに行くんだ。 

 普通なら、もっと早くに手続きしないといけないんだけど、そこはほら・・・美嘉の・・・ね?

 本当に、美嘉が魔眼を保持していてくれて良かったよ。


 一応、美嘉の知り合いとなっているので、美嘉が一緒についていくらしい。

 授業は・・・


「別に、受けなくても問題ないよ。」


 というセリフ・・・凄いや。

 流石は美嘉だね。


 学校で授業なんかを受け、帰宅する。

 今日はアルバイトも無いし、のんびりとできる・・・と思ってたら、なんか美嘉がとんでもない事を言い始めた。


 それは、夕飯を食べている時だった。


「え〜まもなくリリィとラピスが留学生として来ます。一応、卒業までなんとかする予定です。」

「うん、そうだね。色々ありがとうね?」


 美嘉の言葉に、僕はお礼を言う。

 毎回、1番骨を折ってくれているのは美嘉だからね。


「はい、どう致しまして。つきましては、そろそろ報酬を頂きたく思います。」


 ・・・報酬?


「まぁ、別にいいけど・・・何か欲しいの?」


 高いものじゃなければ、なんとかしようかな。

 実際、感謝している事だし。


「流石は歴代最高の勇者との呼び名が高いシュンね!それでこそだわ!あたしが要求する報酬は一つ!」


 大仰に頷いた美嘉が、オーバーリアクションで指を立てながら僕にずずいっ!と近寄った。

 

「な、何?」

「それは・・・・・・この家のリフォーム権です。」

「?どういう事?」

「それはね?」


 美嘉の説明はこうだった。 

 

 人数が増えたことで、ちょっと手狭になったので、引っ越しをしたい、けど、この家は僕と家族の思い出が籠もった家だろうから、手放したくないだろう、だから、僕の家と美嘉の家を完全につなぎ、再構成して、一つの家にしてしまおう!というものだった。

 

 ・・・かなり大掛かりになるけど、それに建物的に、それはまずい気もするけど、大丈夫なのかな?


「シュンくんが心配しているのは、建物の構造と、後は購入したとはいえ、間取りを変えるのが大丈夫なのかって事よね?でも、それは大丈夫よ。要は、あなたの家と、ミカの家を魔術的に繋げ、そこからは位相をズラしたところに部屋を作って、そこで生活するだけだから。実際に間取りを変えるわけじゃないわ。ドア一つで元の空間に戻れるわよ。」


 ジェミニの補足を聞いて、少し考える。


「・・・ということは、実質異空間で生活するってこと?」

「そういう認識で間違いないわ。」


 なるほど・・・で、あれば、広さは家2つ分で、その広さの間取りを自由にできるって事か・・・どうやるのかさっぱりだけれど、そこは大賢者と魔王に任せよう。

 魔法、魔術の二大巨頭だからね。


「うん、別に良いと思うよ?」

「良かったぁ!儀式的につなげるから、家主の許可は絶対必要だったのよね!じゃあ、後は任せて?」


 ・・・言質?

 なんだか嫌な予感が・・・


「あの・・・やっぱりや「ジェミニ!やるわよ!」「任せて!」ちょっと!?」


 止めようとしたら、被せるように美嘉とジェミニがそう叫び、すぐに魔力を高め、魔道具をわらわらと取り出しながら詠唱を始めている。


 いつのまに!?

 これ、やっぱり何かヤバい気がする!!


「美嘉!ジェミニ!!やっぱりやめ「お〜っとシューくん!あぶな〜い!!」っへ?わぷっ!?」


 いきなりクォンがすっ転んで僕の顔に胸を押し付ける。

 僕はもがいてクォンをどかし、再度二人を止めようとした。

 でも・・・


「あ、シュン様!テガスベッター!」

「ばふっ!?」


 叫ぼうとして空けた口に、何故かリリィからパンが突っ込まれた!?


「もぐもぐ・・・ごくんっ!美・・・「っ!!シュン!危ない!」ぐもっ!?」


 更にパン!?

 流石は聖騎士!突きが鋭い・・・じゃなくて!

 これ、絶対わざとだ!


 僕は、なんとかパンを食いちぎり、口の中のパンを飲み込むと、大きな声をあげようと・・・


「「「地震だ!!」」」

「ふぐぅ!?」


 嘘だ!!

 まったく揺れてなかったのに、突然3人が僕にしがみついて、身動きができなくなっちゃった!

 あ、誰だ首筋でくんくん匂いを嗅いでいるのは!

 ちょっと!変なとこ触ったの誰!?

 腕を押さえてるのはクオンだね!?

 なんでこんなことするの〜!?


『『・・・次元の狭間に繋げ給え。ペースシフト』』


 あ!?詠唱が終わった!?

 その瞬間、すべてが反転する。

 空間が歪み、大きな地鳴りがしている。


 そして、それが収まると・・・


「・・・ふう、どうやら上手くいったみたいだね。」

「ええ、そうね。流石に疲れたわ。」

「・・・嘘、でしょ?」


 そこにあったのは、僕と美嘉の部屋と廊下をつなげた位の大きさの部屋。

 そこにはベッドが一つだけ。

 普通のベッドを5つ並べたくらいの大きさだ。


 おそるおそる美嘉たちを見る。


「これで、いつでも一緒に寝られるね!」

「そうね。仲間はずれが出来なくて良かったわ。私たち仲良し6人組だものね。」

「わたくしも嬉しいです。ええっと、確かダイニングと、大きめにとった浴室、それとお手洗いが二箇所、それぞれのクローゼットルームがあるのでしたわね?」

「そうだね。勉強はダイニングですればいいし、これならみんなで過ごせるな!シュンも満足だろう。」


 うんうんと頷きながら、笑顔で話し合っている。

 

「・・・は、」

「どしたのシュン?」

「嵌められた!?」


 僕の叫びに、美嘉はニヤッと嗤う。


「・・・なんの事だ?妾は、あくまでも共同の家主であるシュンの許可を得た上で、それぞれの求める部屋にしただけぞ?」

「・・・くっ!!絶対みんなあらかじめ話し合ってたでしょ!僕のプライベートはどうなるの!?」

「・・・シュン。」

「なにさ!」

「無い。」

「無い!?」

「くくく・・・隙を見せたな勇者!新生魔王軍の前には、お主は可愛い子猫よ!カカカッ!!」


 ノリノリで高笑いしている美嘉。

 僕は視線をみんなに移そうとして、そこで愕然とした。

 なぜなら、みんなは美嘉の横に並んでおり・・・


「新生魔王軍四天王が一人、妖狐クォン!勇者シュン!お前のプライベートタイムは頂いた!ムラムラしたらアタシが狩ってやる!遠慮なく言いなよ?」

「新生魔王軍四天王が一人、悪魔大元帥ジェミニ。これであなたも悪の手先に落ちたも同然ね。これからは、すべて一緒ね♡あなたが望むのならば、お手洗いも一緒に行ってあげるわね?勿論、お手伝いもするわ♡」

「新生魔王軍四天王が一人、闇の聖女リリィ!シュン様!全てを受け入れ淫蕩にふけるが良いです!」

「・・・新生魔王軍四天王が一人、暗黒騎士ラピス。シュン・・・諦めろ。もう、ボクにも止められない・・・」


 ・・・ついに勢ぞろいした新生魔王軍四天王。

 かつての仲間たちを前に、勇者シュンは苦悩する!

 明日はどっちだ!?


 ・・・って、現実逃避だよね・・・あはは・・・は・・・

 これ、いつから計画してたの?

 用意周到すぎない?

 二つ名まで完璧だし。

 それに・・・連携とれ過ぎだよ・・・

 もう、抵抗しても、無駄だろうなぁ・・・


 こうして、僕は、すべてを諦める事にした。


「さて、シュン?あたしからで良い?」


 いや、しないから!!


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