第6話 掃除の現場にいきなり現れた救世主!
事故物件もその後何の問題もなく、普通の暮らしを送れている。これは本当にラッキーだと思う。幽霊も私と由奈の切羽詰まった状況をわかってくれているに違いない。ここの家賃が一人2万5千円であるため、旅系ユーチューバーとして海外へ行く貯金も順調にできている。何だか、失業して途方に暮れたけれど、人生何とかなるものだ、と改めて思う。
周りの人達にも少しずつ変化があった。まず、掃除のバイトで友達になったマユちゃんは、通信制の高校に入学が決まった。やっぱり、いつかオフィスで働く仕事がしたいらしい。中学教師をやっている友人を紹介したのだが、色々相談にのってもらい、良さそうな学校を見つけ4月からバイトをしながら学ぶことになった。私の友人は、「あの子は地頭がいいし、根性もあるから頑張れると思う」と言っていた。自分が誰かの人生に少しでも良い刺激をあげられたのなら、幸いだ。何せ、前にも言ったけど
私が前にオフィスで働いていた時の写真がカッコよくて、この突然の高校進学に火がついたのだ!
そして、ルームメートで親友の由奈は、何と彼氏ができた。その相手は、事故物件を紹介してくれた不動産屋の菊池さんだ。由奈のダイニングバーと、菊池さんの店舗兼オフィスは同じ商店街にある。契約を決めてから、時々お弁当を買いに来てくれたり、夕食を食べに来て話をするうちに告白されたらしい。菊池さんは、私達より10歳年上だ。由奈は、とてもしっかりしているが、結構人見知りで、人と仲良くなるのに時間がかかるタイプだ。明るくて包容力がありそうな菊池さんは、ぴったりだと思う。
だけど、親友に彼氏ができると、やっぱりうらやましい。二人は結構真面目に、コロナで影響を受けた商店街をこれからどうするか、などという事も話すらしい。本当にパーフェクトなカップルだ。何だか結婚とか、あるかもね。と心の中で思った。
由奈の幸せを祝福しつつ、私はとにかくお金を貯めることと、来たるユーチューブチャンネル開設に向けて企画を練っていた。しかし、内容は沢山考えられるのだが、技術的な面は不安ばかりだ。動画なんて、撮ったこともないし、編集も一体どうやれば良いのだ?とりあえず、沢山の旅動画を見て、研究してみることにした。
そんな勉強漬けなある日、本当にラッキーな出来事があったのだ。
いつも通り掃除のバイト先のホテルまで行くと、今日お休みのマユちゃんの代わりに
同年代の男がきていた。まだ誰も来ていなかったが、とりあえず話しかけてみた。
「おはようございます!今日のヘルプですよね?」
「は、はい。」
その後何も話さない。
「私、ミナミです。あ、下の方の名前だけど。」
「オ、オレはは
です、がほぼ消え入りそうな声になっていた。
「下の名前だよね?」
「そ、そうだけど。」
また、だけど、のところが消えかかっている。
相当内気な男のようだ。
「ヒナタ君は、いつも色々な所をまわってるの?」
「そう。週に2回位しかやってないから、固定にはできなくて」
「そっか。週に2回って他の仕事もしてるの?」
コミュ障にガンガン話しかける私も鬼だけど、私は人と話すのが好きなので
気にせずに聞いてみた。
「あ、あとの日は動画の編集のバイトしてる。」
私は、マジかよ!!と思い聞き直した。
「動画ってユーチューブとか?」
「そう。ユーチューバーの動画の編集を請け負う会社でバイトしてる。」
「じゃあ、ユーチューブの編集できるんだ!?」
「うん。」
私は、絶対にヒナタ君と友達にならなければいけないと思った。何が何でもである。
「実は、私、近い将来旅系ユーチューバーになろうと思っていて、今企画とか考えているんだけど、編集とか技術面が不安で。ヒナタ君、動画編集の話少し聞ける?」
「え、オ、オレでいいの?説明とかうまくないけど、、、それに旅系はやったことないし、、、」
「そんなの、関係ないから!!お願い!!」
私はこの私の前に現れたジーザスのようなヒナタ君と、どうしてもコネをつけておかなければならないという必死さからもの凄くずうずうしくなっていた。
「今日、掃除の後、30分位話せる?」
「う、うん。」
本人は、嫌だったかもしれないけれど、強引に約束を取り付けた。
私は、心の中でガッツポーズを決めた。
掃除の後、外でひなた君が待っていた。よかった。逃げなかった。
「ヒナタ君、ホントにありがとう!」
さっきは、作業服の赤いつなぎをきていたヒナタ君だったが、私服を見ると
物凄いお洒落だった。何だかアーティストのように見える。
「ヒナタ君、お洒落だね!アートっぽい!」
「あ、ありがとう。オレ、アーティスト目指してて、、」
またもや、おとなしいヒナタ君にガンガン質問攻めにしたところ、美大を出て
から就職活動をしなかったらしい。そして、バイトをしながら、アーティスト活動をしているということだった。
「じゃあ、ヒナタ君何で掃除のバイトしてるの?」
「編集のバイトで運動不足になって太ったから、ジムにでも行こうかなって思ったけど、掃除のバイトをやっていたら太らないって、聞いて。。」
「ホントにそうだよね!私も、そこ本当にありがたいわ!」
ヒナタ君が初めて少し笑った。イケメンとはいえないかもだけど、好感を持てる笑顔だ。あんまり聞いてばかりではと思い、私の事も軽く話したりして、ヒナタ君がリラックスできる雰囲気を作り、ちゃんと話をすると、かなりのコミュ障ではあったが、すこしずつ話をしてくれて、聞きたかった動画の編集の話などにも触れる事ができた。
そして、話の中でヒナタ君がぽつんとこう言ったのだ。
「まだ趣味としてだけど、一人でアートっぽい、ミニフィルムも撮ってる。」
「え、編集だけでなく、カメラマンもできるの?」
「ユーチューブは撮ってないよ。でも、映像を撮るのは好きかな。」
「アートな映像とユーチューブは違うと思うけど、どんな機材を買えばいいか教えて!」
私は、ヒナタ君に、とことん図々しく質問攻めにした。
最初私の勢いに飲まれていたヒナタ君も、私と話すことに慣れたのか、色々な事に答えてくれた。聞きたいことがあり過ぎて、30分では到底話は終わらず、結局2時間も話し込んでしまった。
「ヒナタ君、本当にありがとう!!ちょくちょく連絡するかもだけどいい?」
「あ、いいよ。ぜんぜん」
これは、思わぬ展開である。ユーチューブ、何とかなるかも??
ヒナタ君は、紛れもなく私の救世主だ。ありがとう、ヒナタ君。
家に帰ると早速、お礼のLINEを送っておいた。
「ヒナタ君、今日は初めて会ったのに色々教えてくれてありがとう。
本当に助かったよ。又、よろしくね!」
すぐに返事がきた。
「みなみちゃん、話せて楽しかったです。YouTube応援してます。」
お世辞でも楽しかったなら、よかった。もう、ウチら親友じゃね?
コロナで失業しました! 杏奈 @AnnaKarina
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