第31話頑張ってみようかな(2)
梅雨が明けて、夏の暑さが本番を迎える。それと同時に、勉学のピークがまたやってくる。期末テストの範囲がまとめられたプリントを見ながら、深くため息をこぼす。
いくらなんでも、テストが多すぎる。そして一つあたりの範囲が膨大過ぎる。
「後、席替えしようと思います」
担任の先生は聞き流してもいいようなトーンでそう告げる。確かにずっと出席番号順だったけど、脈絡がなさすぎる。数秒の沈黙の後に、教室内が一気に騒々しくなって、色んな感情の声が聞こえてくる。
「くじ作ってきました」
その騒々しさにかき消えてしまうような、いつもと変わらない声。生徒の何にも動じず、作ってきたらしい番号が書かれた紙が入っているというボックスを楽しげに振っている。独特なテンポだなぁ。
「じゃぁ、秋田さんから順番にいきましょう」
そう言って楽しげに微笑まれて、少し戸惑いながら立ち上がる。
ボックスから引いた紙を開くと、二十三番と書かれてある。流石に廊下側一番前という一番の外れ席にはならないだろう。
後は、理歩の席が少しでも近づけば。
「優ちゃん、何番だった?」
「二十三。 絵里ちゃんは?」
「十五。 近いといいなぁ」
「だね」
絵里ちゃんとこうして気軽に話せないのは寂しいかも。私の席から後方へ番号を振っていくと仮定すると、絵里ちゃんとはそこまでは遠くはならないけど、あの先生だし番号の振り方も一癖あるかもしれない。
「引き終わりましたね、じゃぁ、廊下側一番前を一番として、その後ろを二番としていきます。一番後ろまでいったら次の列の一番前が次の番号です。窓側一番奥が三十五番ですね。では、移動してください」
今回は直球らしい。真ん中付近の後方ポジション。結構いい位置になった。窓から外が見えるし、なんとなくこちらの方が廊下側よりも開放感がある。
「あれ、優そこ?」
「うん、理歩は?」
「私十六番。斜め前だ」
右斜め前に、理歩が座る。椅子に座って、後ろを振り返って、理歩が私の方を向いている。たったそれだけなのに、頬が緩みそうになる。授業の合間にだって、もっと気軽に、理歩と話すことができる。
あぁでも、授業中に理歩ばかりみてしまったらどうしよう。
「理歩だー」
「絵里、近いね」
「ねー、前の席遠かったから嬉しい」
「……うん、私も」
照れくさそうに理歩が笑う。それを見ても、まだすこし浮ついた心地は変わらずあり続けていて、もやもやとした感情が霧の様に立ち込めることはない。私のそれは、やっぱり愛花って子にだけでてくる。
絵里ちゃんと話す、理歩の横顔を見つめる。いつでも気軽に理歩を見ることができる。席替えに感謝しなきゃと思う。
「じゃぁ、改めて。 フレッシュな気持ちで期末テスト頑張ってくださいね」
担任のその一言で、騒がしかった教室は途端に静まり返る。にこりと笑みを浮かべたそれは、計算なのか天然なのか。そんなことを考えていると、チャイムが鳴ってホームルームが終わった。
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