第30話頑張ってみようかな(1)
接戦を制して、バレー女子は優勝という素晴らしい結果となった。沙耶はやり遂げたように清々しい笑みを浮かべ、途中から理歩の代わりに入った絵里ちゃんも楽しげに笑っている。
コート内で輪になってはしゃぐクラスメイトを笑いながら理歩へ視線を向けると、理歩は少しだけ寂しそうな表情をしていた。
「……理歩」
「ん?」
「行こ」
「え?」
彼女の手を引いて、輪に向けて走り出す。理歩だって途中まで頑張ってたんだから、皆と一緒にはしゃいだっていいはずなんだよ。
沙耶が左手を上げて、輪の中に理歩と私をいれてくれた。まだ熱い沙耶の腕が私の肩を組んで、私は理歩の肩に腕を回す。理歩は戸惑ったような表情をしていたけれど、また沙耶がはしゃぎだすと、次第に頬を緩めてくれた。
彼女の寂しげな表情の理由を知らないわけじゃなかった。応援中に愛花という子と男の子が二人で抜け出していたのを、私だって見ていたから。彼女は理歩の気持ちを知らないのだろうか。私と同じ熱を灯していると思っていたのは、勘違いなのだろうか。
でももう、それはどっちでもいいのかもしれない。
「理歩」
理歩を何度もあんな表情にさせてしまうのなら。遠慮なんて、きっといらない。
「優勝おめでと」
私のこの感情が、恋だというのなら。理歩が笑っていられる様に、頑張ってみたい。
「じゃぁ、この後予定ない人で打ち上げしようよ」
「また急に」
「予定ない人ー」
沙耶が大きな声でそう言うと、同じチームの子たちが次々と手をあげていく。絵里ちゃんも手を挙げていて、私は理歩を見つめる。理歩も私を見つめて、戸惑っていた表情を、控えめに笑顔に変えてくれる。
「「はい」」
二人で手を挙げる。そうしてまた二人で顔を見合わせて笑って。それが、心を温かくしてくれるのだと知った。理歩がもっと、ずっと、笑ってくれていたらいいな。
「じゃぁ、決まり」
てきぱきとした指示系統に、あっという間に放課後の予定が決まる。彼女が自然と人を引き付けてしまう理由の一つなのだろうと思う。
解散になって、またいつもの四人に戻る。疲れたって絵里ちゃんが背中を丸めて、皆で教室に戻るために歩く。
「じゃなかった」
「え、何?」
「あー、急用!」
絵里ちゃんが慌てたようにそう言って、小走りで去っていく。向かう方向には体育館。そういえば、応援に行くと言っていたっけ。沙耶が訝しげに絵里ちゃんの背中を眺めている。
「まぁまぁ、うちのクラスはもう全部終わったみたいだし、戻ろ」
「まぁいっか」
沙耶の背中を押しながら歩く。理歩はそんな私たちを見ながら、少しだけ寂しそうに笑った。
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