第20話弾む理由(2)
テストを終えて、ようやくいつも通りの空気が教室に帰ってきた頃に、それは始まった。
「今からクラスマッチの各種目のメンバーを決めます」
体育委員が気合十分な大きな文字で黒板にクラスマッチと書き込む。バレー、バスケ、卓球、三つの種目で優勝を競うお祭り行事。沙耶はバレーとして、絵里ちゃんはやっぱりバスケなのかな。出来れば誰かとは一緒の種目になりたい。どれがやりたいとかも特にないし。理歩はどうなのかな。
とはいえ、対角線上、一番遠い席の理歩にはどうやっても聞くことはできないし。振り返って絵里ちゃんに意見を求める。
「バスケ部のマネージャーだけど、別にバスケ出来るわけじゃないんだよね」
「あー、まぁそりゃそっか……じゃぁ絵里ちゃんも別に希望なし?」
「でも彼氏がバスケやるだろうからバスケ選んだ方が応援できるかな」
「なるほど……え?」
思わずベタにスルーしかけてしまった。にっこりと笑みを向けられて、いやいやいや、と思わず突っ込む。聞いていない。過程も結果も何も聞いていないのに、いつの間にか前提みたいに言われても。
「え、いつ?」
「まだ二週間くらいだよ」
「あ、そうなんだ……え、誰、とか聞いていい……?」
「バスケ部の人、優ちゃんは知らないと思うな」
確かに絵里ちゃんは愛嬌があって、誰とも壁を作らずに仲良くなれて、見た目も小柄で華奢で守りたくなる可愛さもあるわけだけれど。出会って二か月位で、そういうことになるんだ。
「バスケにして絵里ちゃんの相手見たくなってきた」
「部活内では秘密にしてるから、こっそり、ね」
そう言って人差し指を口元に充てる仕草は、かなりキュンとくるものがある。こんな可愛い子を彼女に出来る人、ますます見てみたくなる。
「じゃぁ次、バスケやりたい人ー」
「はーい」
絵里ちゃんが手を挙げて、それに続いて手を挙げる。黒板に書かれる人数は、定員枠内だ。そしてバレーの方に沙耶と理歩の名前があるのが見えた。こちらは定員をオーバーしている。理歩とも一緒になれれば良かったけれど、そうすると沙耶が一人だし。沙耶は何も気にしなさそうだけど。
「理歩はバレーだね」
「みたいだね」
「あれ、理歩と違う種目で落ち込んだりしないの?」
「ちょっと……」
沙耶のが移ったのか、何かと理歩のことでからかわれるようになってしまった。そりゃ理歩と同じが良かったけれど、テストが明けてからはほぼ毎日二人で帰っているし、お昼も一緒にいるし、この前は四人で休日に集まって遊ぶこともしたし。一緒にいる時間はすごく増えているのだ。
「ごめんごめん、優ちゃん理歩のこと大好きだからつい」
「大好きって」
「ぐいぐいいくのって大事だと思うよ、私はね」
そう言ってまたニコニコとほほ笑むから、なんだかんだ絵里ちゃんには適わないと思う。意外と手綱を握っているタイプかもしれない。
「ぐいぐい来られた人の感想?」
「ぐいぐいいった人の感想」
「え?」
少しだけ肩を竦めて、小さな舌が茶目っ気たっぷりに覗く。度胸がある子だとは入学式にも思っていたけれど、そこまであるとは。絵里ちゃんがぐいぐいいく男の子ってどんだけかっこいいんだろう。バスケ一筋、みたいな人なのかな。
ぐいぐいいった人の感想、か。
「いやいや、話の根本がちょっと違うから」
「そうかもしれないけど、仲良くなりたいって部分は一緒でしょ? だからいいと思うよ、優ちゃんのちょっと気持ち悪い理歩への態度」
「気持ち悪い言うなー」
「あはは。 でももしかしたら定員から漏れてこっちに来るかもしれないし、諦めないで」
「そうなったら嬉しいけど」
「でしょ?」
クスクスと笑う表情に。なんでだろう、振り回されているのすら許してしまいそうな愛嬌というか、可愛さというか。そんなものを感じる。絵里ちゃんは魔性の女なのかもしれない。
「じゃぁ、最後に卓球の人――」
卓球は定員丁度の人数が応募し、バレー希望で漏れた人が自動でバスケに来ることになった。教壇の前に希望者たちが集って、なにやら話をしている。自分のことでもないのにその様子を注視してしまう。間接的には、自分の事でもあるけれど。
結局はじゃんけんが始まって、沙耶を含め三人が勝ち抜ける。再度聞こえてくるじゃんけんの合図。
三度目のあいこを経て、勝敗が決まった。
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