第12話意外(2)
「ちょっと優ちゃん~、聞いてますか~」
「え?」
目の前でひらひらと手が揺れていて思わず後ずさる。手の持ち主の絵里ちゃんが、私の行動に口元を抑えて笑い始める。準備運動、ペアでしょと笑われて、今が体育の授業中だったことを思い出す。
「ごめんごめん」
「なに、どうかしたの?」
絵里ちゃんが地べたに座って、後ろから絵里ちゃんの背中を押す。上半身が地面につきそうなほどに、柔らかな体が前に傾く。
「あー。 栗色の髪でふわふわーっとしてて、結構目を引く女の子……愛花って名前らしいんだけど、知ってる?」
「知ってるっていうか、結構有名だよね」
「私も顔は知ってる」
「七クラスにめっちゃかっこいいサッカー部はいった男子がいて、その男子が狙ってるのが愛花って子らしい、とか。 先日先輩に告白されたとか」
「え、やばっ、て、いててて」
「優ちゃんは体硬いなぁ」
背中を遠慮なく押されて、悲鳴が漏れる。水泳やピアノは習っていたものの、体が柔らかくなるような運動は昔からやってこなかったから仕方ない。バレェを習っていた絵里ちゃんとは体のつくりから多分違っている。
「モテるんだねぇ」
「理歩にはあんなに顔がいいって言ってるのに、あの子の顔には反応しないんだ」
「可愛いけど、どちらかというと怖いが先に来るかも」
「まぁ確かに、ギャルって感じはするよね、ピアス結構空いてるし」
「よく見てる、流石」
「まぁね。 それで、なんでその子の話?」
手を繋いで、体を横に傾ける。お互いに腕を引きあって、体の側面を伸ばしていく。さっきから何度も再生される、図書室の二人の風景。わき腹が伸びて痛い。
「んー、なんか、理歩の友達っぽくて」
「え?」
絵里ちゃんの目がまん丸になって私を見つめる。やっぱりそういうリアクションだよね。私も結構驚きだし、正反対だなぁって思ったから。最後に軽くストレッチを終えると、笛で集合の合図が鳴る。
「意外過ぎる組み合わせなんだけど」
「だよねぇ、でもさっき図書室でめちゃくちゃ仲良さげに話してて」
「マジ?」
「うん」
体育の先生が今日のやることを伝えていく。二人一組のバレー練習でアンダーハンドパスとオーバーハンドパスを十五往復させること。そう言うとまた自由な時間がやってくる。籠の中にあった比較的空気の入ったボールで絵里ちゃんと形だけの練習をする。
「なんか……ねぇ」
「え、なに?」
「私まだ全然理歩と親密になれてないんだなぁって」
「昼休みに沙耶も言ってたけどさぁ、理歩に対して気持ち悪いよね、優ちゃん」
「えー?」
4回目のレシーブで、ボールは大きな弧を描いて飛んでいく。絵里ちゃんの頭上を越えて、他のペアの子達の方へ転がっていく。
気持ち悪いよねぇ。でもこういう風にでも言ってないと、自分が思ったよりも動揺していて、思ったよりも焦っているなんて知られたくない。気持ち悪いって笑ってくれる範囲じゃなきゃ、普通じゃない。
「ごめん、変な方向飛ばしちゃった」
「いいよー。 でもなんのきっかけなんだろうね、その二人の組み合わせ」
「中学の頃からだって言ってた」
「んー……むしろ幼馴染とかなら、あんなに正反対でもわかる気がするけど」
「後で確認するかぁ」
「交友関係の確認も大概アレだから」
そう言って笑う絵里ちゃんを見て、私も笑う。本気で知りたいと思っているのは、やっぱり変だよね。ただの友達の、中学の頃の交友関係を知りたいとか、本当に親友、なのかとか。あの二人の本当の関係とか。
ずっと考えてるなんて、変だよね。
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