第11話意外(1)

 二人分の体操着を持って図書室に入る。受付に理歩はいなくて、代わりにもう一人の委員が座っている。軽く辺りを見渡すと、もうすぐ昼休みが終わるからなのか、直近にテストがないからなのか、人はほとんど見当たらない。


「あの、理歩は?」

「さっき友達が来てて、奥に二人で行ったよ」

「そっか、ありがとう。 っと、次体育だから、遅れない様にね」

「そうだった、じゃぁそろそろ閉めようかなぁ。 ついでに渡さんにそう伝えてくれる?」

「いいよ、伝えてくる」

「ありがとう」


 なんだかいつも理歩を呼びに図書室に来ている気がする。図書室では大きな声では話せないけど、二人で話せる機会が多いから割と気に入っている。あの二人はあまり図書室とは縁がないみたいだし。



 本棚の間を抜けて、奥のスペースに出る。大きな机が並ぶ場所に、理歩を見つける。隣にはさっき友達と言っていた、女の子。栗色のふわふわの髪は綺麗にセットされていて、理歩とは対照的な、垂れた目尻。薄くリップが塗られた唇が、理歩に言葉をかけている。隣にいた子に、私は目を丸める。


 入学式に先生に怒られていた子、委員会なのに全然教室から出なかった子、よく廊下で男の子と歩いているのを見る子。それは一つとして、理歩とは繋がらなくて。もっと言えばすべてが正反対のような。

 なのに、理歩は彼女のように目尻を下げて笑う。楽しかったり、嬉しかったり、面白かったりした時とは違う笑みを彼女に向けている。眉も目尻も下がって、肩が少し猫背で、彼女の言葉を逃さない様に彼女に体を向けて、近づけて、世界の全部が彼女みたいに。瞳いっぱいに彼女を映して笑っている。


「でね、先生、が……」


 ふわりとした女の子が先にこちらをみて、その後に理歩が私を見る。何故だろう。覗き見ていたわけでもないのに、背中に汗をかきそうで、項の辺りがピリピリと痛くて。喉が詰まってうまく言葉がでてこない。


「あれ、優?」


 理歩は不思議そうに私の名前を呼ぶ。詰まってせき止められていた言葉が咄嗟に出てくる。理歩を呼びに来たこと、次が体育でそろそろ行かないと間に合わなくなること、図書室も閉まること。その間中、栗色の髪の子は私をじっと見つめている。


「そうだった、ごめん愛花、もう行かなきゃ」

「授業遅れちゃだめだしね、じゃぁまた連絡するね」

「うん」


 愛花、と理歩が呼んだ女の子が理歩に手を振ると、理歩が照れくさそうに笑う。すぐに離れて理歩はこちらへと向かってきて私は思わずその女の子に会釈をする。女の子はふわりと笑みを浮かべて会釈を返す。


「体操着までありがとう」

「あ、ううん。 全然」


 隣を歩く理歩を見つめる。涼し気な印象を持たせる釣り目に、すっと通る鼻筋。それはどれも、やっぱりいつもの理歩で、先ほどのあれはあの子にだけ見せる理歩なのだと知る。

 どれくらいの知り合いなのだろう。あとどれくらい話せばあんな表情を見せてくれるようになるのだろう。私は今、どこにいる?


私は理歩の、あの表情を見ることができるようになる?


「……優?」

「え、あー、っと……今の友達?」

「うん、愛花は中学からの私の親友」

「親友」


 本当に?

 あの子を見つめる、全部を受け入れるような視線を思い出す。

 私には、どうしてもその言葉がひっかかった。 

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