1章:その感情の定義について
第10話弾むのは何故
強張って無機質に聞こえていた声が、すこしずつ柔らかくなっていく。見定めるような視線は、ゆっくりと警戒を解いていく。
本を読むのが好きらしいこと、どちらかというと話を聞く方が好きなこと、お弁当がいつも凝っていること、笑うと目が細まって少し幼く見えること。少しずつ、知っていることが増えていく。
「優って理歩のこと気に入ってるよね」
「だってさぁ綺麗だよねぇ、永遠見れそうだもん」
沙耶の言葉に全力で肯定すると、沙耶は売店で買ったリンゴジュースを飲む。話を振ったくせに興味はないらしい。お昼休みは図書委員の当番で理歩はいない。
「初日にいきなりカフェ誘ってたのは結構面白かったけど」
「振られてたやつね」
「振られてないし、次はオッケーもらえたから」
私の言葉に絵里ちゃんが口元を抑えて笑う。私の必死の否定がどうやら面白かったらしい。確かに初日は振られてかなりショックだったけど、あの日は色々と運がなかっただけだと思う。くじ引きで学級委員になっちゃうし。幸先の悪さに絵里ちゃんに慰められるくらいには凹んだ。
けれど無事にこうして昼休みに机を寄せてご飯を食べる友人も出来たし、同級生や先生に目をつけられてもいないし、理歩とも仲良くなれたし。結果としては悪くないと思うんだよね。
「でもその喫茶店でめちゃくちゃ質問責めしててさぁ」
「飲み物何飲む? 何が好き? なんでも頼んでいいよ? は結構きもかったよ」
「ちょっと」
私だって初めての人との会話は緊張するし、理歩はあの時私と沙耶と絵里ちゃんに囲まれていたから余計に緊張してただろうし、誘ったの私だし。積極的に話しかけようと努めた結果な訳で、それをキモイと一蹴してしまうのはいかがなものか。
沙耶を睨みつけると、カラカラと陽気に笑って、お詫びとしてリンゴジュースを差し出される。まぁ、許さないこともない。口の中に甘さが広がる。
「そういう積み重ねで、今理歩とご飯食べれてるからいいの」
「じゃあその積み重ねにこれも追加しておいて」
そう言って絵里ちゃんは理歩の机にかかっている手提げかばんを手に取り私に差し出す。
「なに?」
「次体育だし、理歩にこれ渡して図書室から直接向かった方がよくない? 多分理歩忘れて一生懸命図書委員の仕事してると思うんだよね」
「確かに、そろそろ時間か……よく気付くね」
「まぁね」
絵里ちゃんは口角を上げて得意げな表情をしている。そうやってふざけるけど、その気遣いを私に譲ってくれるところまで含めて気遣い屋さん。ただ単に図書室までの運び屋として使われている可能性もあるけれど、私としては嬉しい限りなので問題なし。急いでお弁当を片付けて、自分の体操着を持って教室を出る。
四人でいるのはもちろん楽しい。会話は淀みなく流れるし、その中で理歩が笑うようになったから。でも、二人で話すのもまた好きで。私の言葉に理歩が言葉を返すたびに、気持ちが弾んでいくような楽しさがあるから。
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