第4話

 なぜ桜木町なのかと言えば、近場で・歩道が整備されていて・ご飯も遊びも観光も充実しているから。

 中でもコスモワールドは頻繁に訪れていて、私はその全てが苦手だけど千代はお化け屋敷も絶叫アトラクションも大好きで、いつか飽きてくれるのを信じて付き合い続けている。

「あー! ありがとねありがとねー!」

 そして道中、そう珍しくはないにしろやっていれば足を止めてしまう大道芸。大音量のBGMと陽気な声に惹かれてつい立ち寄ってしまった――

「皆さんもね、この仲良し姉妹ちゃん達みたいにもっと前来てくださーい!」

 ――のが、失敗だった。

「……はぁ」

 誰と誰が姉妹じゃい! 大学生と中学生ぞ!?

 見てわからんのかい見て! ……わか、り……ませんよねぇ。身長、千代に抜かれかけてるし。バス乗ろうとしたら子供料金とられかけるし。

「奈緒ちゃん、行こ」

 悔しさで拳を握る私を横目で一瞥した千代は、その手を取って立ち上がった。

「えっでも」

「えー! 行っちゃうのお姉ちゃん!」

「私達、恋人同士だから」

「「「!?」」」

 パフォーマーのお兄さんよりも近くにいた観客よりも誰よりも、私が驚愕したのは間違いないだろう。

 大人びてはいるけれどマセてはいない……はずなんだけど……。

「ちょっと千代、あんな冗談言ってお友達とかいたらどうするの?」

 手を引かれたまま広場を抜けてコスモワールドに入った辺りで、一応注意を……

「別に。奈緒ちゃんのこと自慢して終わり」

 してみたものの、見事なまでの暖簾に腕押し。

「どこから回ろうか、奈緒ちゃん」

 なんか……千代ってこんな……こんな感じだった……?

 さっきから繋いだ手の指先を遊ばせたり、腕くんでべったり寄り添ってきたり……。

「どうせジェットコースター乗りたいんでしょ、行こう」

「やった! 奈緒ちゃん大好きっ」

 髪型だけじゃなくて、香りもいつもと違う。ハンドクリームじゃないな、たぶんコロンでもない……ヘアオイルか。菊江さん仕込みってわけね。くそぅ、そっくりの別人と一緒にいるみたいで調子狂うなぁ。

「あっ、ほら千代、タピオカ売ってるよ、買ってあげる」

「えー、タピオカー?」

 えー!? なにその反応! 年頃乙女達はタピオカ大好きじゃないの!? もしかしてブーム終わったのって都市伝説じゃなかった!? 

「いらない」

「そ、そっか……」

 本当に終わったのか……ブーム……。自分の市場調査が甘くて泣けてくる……華の大学生なのに……。

「でも飲みたい」

「どっち!?」

「一個買って? 奈緒ちゃんと一緒に飲みたい」

「んー、千代がそれでいいなら」

 まさか中学生に財布の心配されてる、なんてことないよね……?

 若干自分の威厳について考えさせられながら注文。確かに行列も全然できてないや……流行り廃りは恐ろしいなぁ。

「はい、どうぞ」

「奈緒ちゃん先飲んでて。私トイレ行ってくる」

「私は毒味か」

 ツッコミつつ千代の背中を見送り、少し喉が渇いていたのでさっそくいただく。タピオカっていうかミルクティーがこってりと甘くて美味しい。

「なーおーちゃん」

「おかえ――」

 しばらくスマホを適当にいじっていると千代が戻ってきた、と、同時に――

「…………な、なに?」

 片手をついて壁と体で私をサンドイッチ……いわゆる壁ドンを突然かまして――

「…………」

「ちょちょちょちょ……」

 そのまま瞳を薄く閉じて距離を詰めてくる。

 いともたやすく急上昇した心拍数は体を硬直させ、眼球だけが千代の動きを追っていくと……その唇の着地点は、私が勝手に想像していたものではなく――

「っ……」

 ――タピオカミルクティーに刺さったストローだった。

 普段だったら何も思わないはずなのに、なぜその行為をどうして……『間接キスじゃん』などと、受け取ってしまったんだろう。

「……奈緒ちゃんの味がするね。甘くて優しい」

「なに言ってんだか……。それはミルクティーの味です」

「ふっ……ふふ……」

 私から離れると、口元を抑えて笑い始めた千代。

「……なに?」

「だって奈緒ちゃん……あんなに身構えちゃって……可愛くて……」

 くっ……こんのぉ〜! 年下のくせに~千代のくせに~!

 ……一旦落ち着こう。何をときめいていますやら。相手は6つも年下なんですよ奈緒さん……! 年上として! 毅然とした対応を!

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