第7話 入学式②
あの後どうにか美空に許しを得た俺は、家族と別れて入学式の会場である体育館に向かっていた。
そう。いよいよ入学式が始まるのだ。
入学式は保護者も参加するのだが、この学園の入学式は、混雑を避けるために生徒は南口から保護者は北口から入ることになっている。
そして南口側にはステージがありそこで式典が行われる。なので生徒は南口側の椅子に座り、保護者は後ろの北口側の椅子に座る。
「…………」
それにしてもこの学園はデカい。建物も敷地もだ。近づけば近づくほど実感する。
「…………っ」
そして、大きいだけでなく建物自体が新しく清潔感があった。
「…………っ!」
お、おそらく清掃業者か何かを雇って掃除してもらっているのだろう。汚れが見当たらない。
「……っ!!!」
さ、さすが私立だろうか――って!! さっきから視線が凄いな!!
なるべく平常心を、って意識してたけど無理だ!!
……別に嫌じゃないんだけどどうも落ち着かない。
今俺は学校の敷地内を歩いているわけだが、やはりと言うか何と言うかその道中とにかく視線が凄い。
加えて俺が近づくと、それまで会話をしていたはずなのに急にやめてしまうのだ。
家族でショッピングモールに行った時もそうだが、気まずい。
……嫌ではないんだけど気まずい。
加えて俺の後ろには新入生の列が出来ていた。……完全にデジャヴ。
それに後ろにいる彼女たちからは話し声が聞こえてくるんだよ! 俺の悪口ではないと思うがどうも俺には自分の悪口に聞こえるんだ。前世からの悲しい性だろうか……。
俺は再び平常心を努めながら先へと歩き続ける。
しばらくすると、前方に体育館が見えその傍には大きな貼り紙が貼ってあった。……クラス分けのようだ。
見たところ1クラス30人編成の4クラス。やはりこの世界の状況を考えると、前世よりも幾分か少なく感じる。
……まあけど、人数はあまり関係ないか。全員と仲良く……、なんてのは無理だ。時間が足りない。
――うん。やっぱり人間関係は最初のクラスが大事だと思う。良い出会いがあるといいな。
そう思いながら俺はクラス分けの前に進む。
「俺は鳴瀬だから…………と、1組か」
どうやら1組だったようだ。
俺の文字のフォントだけ違うような気もするが、気づかなかったことにしよう……。
「まじか! 1組かよ!! 」
「くっそおおおお!! 学校側に抗議するか?! おかしいぞ!ずるい!」
「ずるい!ずるい!ずるい!」
「……ヒック……ヒック」
「成績か?! 成績が悪かったからか?!」
「天に祈りが届かなかったか……。精進せねば……」
「 ……来年。来年に期待よ……」
「……べ、べつに同じクラスになりたかったなんて、……お、思ってないし……」
1組になれなかった女子生徒達だろか。彼方此方から悔しがっている声、羨ましがっている声などが聞こえてきた。
そこまで俺と同じクラスになりたかったと思ってくれるのは普通に嬉しいな。学校行事とかで関わる機会があるだろうから、その時は他クラスにも配慮しないとな。
「来た!来た!!」
「よし!!!!!よし!!!本当によかった!!!」
「……運を使い切ったか……されど後悔などあらず」
「この学園選んでよかった!!あいつらに自慢してやる!!」
「冗談抜きに合格より嬉しいよおおおお!!!」
「――告白して……付き合って、………えへへへへ」
「……まずは落ち着け、落ち着け私。……慎重になれ。……失敗は許されない……」
こっちは1組になれた女子生徒達だろう。喜びの感情がすごく伝わってくる。
もちろん俺だって嬉しい。だって皆かわいいんだよ。まさにアイドル気分だ。
俺はその光景を眺めつつ体育館に足を進める。
先ほどクラス分けが発表されたわけだが、どうやらこの学園では登校初日に初めて自分の教室に行くらしい。
なので入場する前の待機場所は、体育館の入り口にある大きな待合室のような場所になる。
つまり今日は、直接入学式会場の体育館に向かって式を行い、そのまま保護者と帰るという流れになっているようだ。
また入学式で新入生たちが座る座席は、クラス毎に五十音順になっている。
……はずなのだが、どうにも俺は例外のようで教師席の所に座ることになっていた。
まあ大凡の理由は想像できる。男の俺が女性生徒達の所に座ったら入学式どころじゃなくなるからだろう。
「ご、ごめんなさい! な、鳴瀬君は初めての男子生徒だから学校側も対応に慣れてなくて……」
「いいえ大丈夫ですよ! 正しい対応だと思います」
「そ、そう? な、なら良かった!……です」
そう待合室で俺と話しているのは、1組の担任の先生である小林加奈先生だ。
先生は1組の担任、つまり俺の担任の先生なので入学式で案内役のようなものを任されているらしい。
先生は男に慣れていないのか、顔を赤らめ言葉も早口になっている。リスみたいな先生だ。勿論いい意味で。
「そ、それにしても……。や、やっぱり鳴瀬君は目立ちますね……凄い視線を感じます。そ、それになんだか……私にも……殺気のようなものが……」
先生は困った表情でそう言った。……多分俺たちと離れた場所に座る新入生からの視線だろう。
殺気に関しては先生が俺の隣に座っているからか……。
「……何だか、……すみません」
殺気は100%俺が原因だろう。ごめんなさい先生。
「い、いや! 鳴瀬君は悪くないですよ! 謝らないでください! 」
謝られたのが意外だったのか、先生はオドオドと挙動不審になりながらそう言った。
「 ……先生が担任でよかったです」
「――っ!!!」
今度は茹でだこのように顔が真っ赤になった。やっぱりかわいいな。
「先生どうしたんですか?顔赤いですけど??」
俺は
「――っ!! もっ、もう! か、かからかわないでくださいよ!」
「ははは。ごめんなさい。つい。……次から気を付けます。」
「わ、 分かれば良いんですよ! 先生をからかってはいけませんからね!何といっても私は先生なんですから!」
そう言って先生は威厳を出すためか、あからさまに胸を張った。……しかし肝心の胸はざんねn……ゲフンゲフン!
そしてその後、落ち着くためかゆっくりと深呼吸をし始めた。
「……本当にごめんなさい。……先生が可愛かったのでつい
「ーーーーーっ!!!!!! ごほっごほっ……っくっ。――――も、もう!鳴瀬君!!!!」
「あはは!ごめんなさい先生!」
「も、もおおおおおおお!!!!!」
――この時二人は気付いていないかった。
新入生の誰もが羨ましそうに二人のやり取りを見ていたことに……。
そしてその誰もが『イチャイチャしやがって!』『担任そこ代われ!!』と思っていたことに……。
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