第73話 ようこそ!グレイベア村
お金の力は俺たち全員が思っていた以上に強力だった。
まず資材を効率的に入手するために、コボルト村とグレイベアの巣穴から最も近い街道の脇に小さな村を作った。これは人間の街とコボルト村との緩衝地帯となる。
街から来る人間はこのミチノエキ村に資材の納入や商談を行う。業者や商人がコボルト村やグレイベア村のことを知ることはない。怪しいとは思うだろうが必要以上の接触は避けられるはずだ。
また亜人や獣人に偏見のない信用できる人材をバーグの街でスカウトして、ミチノエキ村に迎え入れた。ちなみにイリアくんもパン職人としてミチノエキ村に来てくれている。鍛冶屋のタンドルフに声を掛けたら、忙しい自分の代わりに弟子を一人派遣してくれた。
街道近くに村を作ってしまったからには、人間社会との関係を無視するわけにはいかない。そこで大活躍してくれたのがステファンだった。彼は今でも貴族なので、今回もその身分を最大限に活かしてもらったのだ。
まずコボルト村とグレイベア村のある土地を領有するコーサス子爵家に賄賂攻勢をしかけた。子爵家を通して王国にも金を届けることで、マーカスを男爵に仕立て上げることに成功。
「これでマーカスも貴族の仲間入りだな! 頑張ってよ男爵!」
俺は茶化すようにマーカスに言った。
「まっ、シンイチ王国が出来たときに、貴族についてあれこれ指導できるよう、せいぜい勉強させてもらうぜ」
カッコいいこと言ってるけど、俺はマーカスが娼館で貴族向けのサービスを受けていることを知っているのだ。
「娼館での貴族の遊び方は勉強してるようだけど?」
「なんだ? 坊主も貴族になって一緒に来たいってか?」
同意しようとしたらライラの気配を背後に感じたので首は横に振っておいた。
いずれにせよ、これでコボルト村、グレイべア村、ミチノエキ村を人間からも魔物からも排他的に確保することができるようになった。
人間に対しては「ここはマーカス・ロイド男爵の領地である!」と主張することができ、魔物に対しては「ここは火竜の支配する領域である!」と主張することができるわけだ。
あとは、そうした主張を侵入者たちが現実の脅威として認識するよう、村を発展させて実力を付けていくだけだ。
ちなみに三つの村についての俺の中での位置づけだが、ミチノエキ村は人間との交易を目的とした、ほとんどが人間の村、グレイベア村はその逆で魔物や魔人の住む村、コボルト村は人間と魔物が交雑する村という感じだ。
そうこうするうちにグレイベア村にルカの眷属が続々と到着してきた。リザードマンの部族、ハーピー族、コボルト族、ラミア、オーガらしき戦士、彼らの多くがそのままルカが住むグレイベア村やその周辺に定着することを希望した。
総勢100名近くになる魔物の集団が住み始めたとなれば、普通なら森から獣が消え、人が襲われ、大騒動になってクエストが発注されるところだ。
しかし、これも大量の金貨とコボルト村やミチノエキ村の存在が、そうした危険を完全に消し去っていた。ルカの眷属たちには十分な食料と寝床が提供され、まだ建設途中ではあるものの快適な居住空間が約束されていた。
心も腹も満たされた彼らは人を襲うことなく、主であるルカの命令通り人目を避けて生活している。さらに人間より遥かに高い身体能力を持つ彼らは、村の建設に当たって貴重な労働力になってくれた。
人間側でもコボルト村やグレイベア村に不用意に人が近づくことがないよう、村の周辺が男爵領の狩場兼戦闘訓練地域であることを近くの人里や街道にて周知を徹底した。
【ここから先、ロイド男爵家専用戦闘訓練地。危険な魔物や獣が徘徊しています。彼らは男爵家の私有財産につき、万が一殺傷した場合には相応の代償をお支払いいただきます】
とか、
【無断侵入の場合、もし貴方がどこからか飛んできた矢や魔法で死亡しても、男爵家は一切責任を取りません】
との立て看板が随所に立っている。
それでも時折、魔物目当ての冒険者が侵入してくることがある。そういうときには拘束の上、俺が企画した『人外萌え育成教育72時間コース』を不眠不休で受講してもらって、彼らから魔物や亜人獣人に対する偏見を取り除いたうえで解放する。
ちなみに今、侵入してきた冒険者たちにこのコースを受講してもらっている。ちょうど60時間目に入ったところだ。
「さぁ冒険者2号、もんもんキャット先生の名作「幼馴染はケモミミ娘」を3ページ目から音読しなさい」
「はっ!」
目にクマを作った男が同人誌を開いて大声で音読を始める。
「尻尾は舐めちゃらめぇぇぇえぇ! ぐふふ、お前が本当に欲しいのはこれだろう? そ、そんなに太いのが入ってきたら、わたしこわれちゃうー」
「よしそこまで! 冒険者2号、いま貴様が見ているもんもんキャット先生の絵の中で一番重要なのはどこだ!」
「はっ! この幼馴染の犬娘の巨乳の膨らみを見事に表現した下乳ラインであります!」
「貴様ぁー! それでも王国冒険者かぁ!」
バシンッ!
俺は机を思い切り叩いた。
「この犬娘の
「申し訳ありません、サー! わたしが間違っておりました、サー!」
「語尾はワンだと言っただろうがぁぁぁ!」
こうした厳しい訓練を経て、侵入者たちは完璧な人外萌えとなってから解放されていく。
指導する俺にとっては大変な労働ではあったが、これも村を守るためだと思えば、耐えることができた。
「では冒険者3号、4ページ目から音読しなさい!」
「はっ!」
俺の指導は深夜まで続いた。
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