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「いや、その、君のお姉さんにこの間のこと話したら、早速親を呼ぶって行ってきて。それが今日急に来れることになったらしい。可憐さんは用事があって後から駆けつけるってさ。今、お母さんだけが最寄駅についたそうなんだけど道がわからないって……このマンションを探してて迷ったらしい。で、まぁとりあえず駅に戻ってもらうことにした」


「な、なんでいきなりっ、隆二っ、どうして教えてくれなかったの?」


 僕はしどろもどろになりながら、緊張で喉が渇くのを感じていた。


「あ、いや、親を呼ぶとなると君が逃げ出すって可憐さんが言うから、当日まで黙ってようってことになって」


「もう、酷いなぁ、いつまでも子供扱いして、逃げないってのに……」


 僕はもう体中から汗がでてきてしまっていた。うちの母ちゃんが一体どんなことを言うのかと思うと僕は恥ずかしい上に緊張でいてもたってもいられない。


 数日前、決心して親に今までの経緯とか、隆二とのこととかを正直に手紙に書いて親に送った。……気がする。

 隆二が自分の親のお墓の前であれだけの決意をしてくれたんだ。僕も何か行動しなくてはと思い、確かお酒の力を借りて書いた気がする。


 今思うと何故そんな勢い余って書いてしまったのかと後悔しきりなのだが、隆二と一緒に暮らしてから引越し絡みで転居届とか、住民票の書き換えとか、芸能事務所に入るならきちんと身の置き所をしっかりしておかなければならないと海蔵監督に言われ、様々な書類を書いた。その関係で封筒やら、切手やらが余っていた。


 だが困った……。勢い込んで出したものの手紙の内容が思い出せない……。


「とにかく、迎えにいかないと」

「いや、隆二だけに迎えに行かせるわけにいかないよ。僕も行く」


 とにかく母親の事が心配になったし、隆二だけに迎えに行かせるわけにはいかないと思い、僕も同行した。


「まったくもう……せめて姉ちゃんもくるなら一緒にくればいいんだよ、そうしたら迷わなくて済んだのに」


 駅前まで向かうと僕は見慣れた懐かしい姿を速攻見つけてしまい、思わず視線を逸らしてしまった。


 ああ、いたよ……やばい。なんだか凄い緊張してきた。

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