6

 キスだけなのに、それだけで今の僕は十分満たされていた。

 達してしまいそうなほど内側から溢れてくる。

 この気持ち言葉で説明できたらいいのに。

 彼も同じ気持ちだと嬉しいな。そう思いながら首筋のあたりに頬をそっと寄せた。


「守、不安にさせてごめん、少し時間をくれ。僕の中できっちりと彼と終わらせる。守に会うまで僕は昴と別れた理由が説明できなかった。でも今ならその原因がわかるような気がするんだ」

「わかったんだ……」

「うん」

「そっか……」


 僕はベッドの中で天井を見上げた。

 まるでおとぎの国みたいな青い星空に可愛らしい星が散らべられていて現実じゃないみたい。


「ずっとこのままだといいのに」

「ん?」

「隆二と一緒にいると何故か現実なようなそうじゃないような不思議な気持ちになる。いつも特別な時間を過ごしているように感じるんだ」

「守」


 僕はなんだか照れくさくなって腕で目を隠した。


「今もそうだよ、フワフワしてる。信じられないくらい嬉しくて楽しくて、さっきまであんなに淋しかったのに。変だよね」

「馬鹿、ずっとこれからも一緒だよ」

「そうだと嬉しいな」


 目に押し付けてた腕がなんだか湿ってきた。嬉しさと切なさと色々なものが交じり合うような不思議な感覚。

 それはまるで儚い夢みたいに手のひらを零れていってしまうようで。

 人を好きになるとどうして失うことにこんな恐れて、怖くて、臆病になるんだろう。 

 その人との繋がりが切れないように必死になって一喜一憂しちゃうんだろう。


「守、どうして泣いているんだ?」

「泣いてなんてない……」


 僕はむしろ彼にしがみついた。

 彼は察してくれたのか僕を無理に引き剥がそうとはしないで、ぎゅっとそのまま抱きしめてくれた。


 隆二が僕をこのまま抱くのだと思い、僕は目を閉じた。

 けれど隆二がどこか躊躇いがちで、ただひたすら僕の髪を撫でるばかりだった。


「どうしたの?」

 僕が尋ねると彼は僕を抱きしめる手を一層強める。


「今ここで抱こうと思えば抱けるけど、守がすごく大事で、大事すぎて、胸が一杯で、本当に僕は君が好きなんだなって、もう恋人だけじゃ嫌なんだなって。守のお姉さんが羨ましい」


 涙が溢れたまま隆二が不思議な事を言うので僕は頭に疑問符が浮かんだ。


「君のお姉さんのように僕もなりたいな」

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