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 隆二がリビングのソファでテレビを観ている。

 僕が夕食のちらし寿司用に海苔をハサミで切っている時だった。

 奥の部屋から可憐がのっそりと起きてきた。ちょっとだるそうな顔で髪も乱れている。

 頭を掻きつつ吸い込まれるようにリビングにフラフラとたどり着くとおもむろにシジミの味噌汁の鍋の蓋をあける。

 ふんわりと白い湯気の中に香る潮の香り。

 可憐はすぅと吸い込んで目を細めた。


「ああ、いい磯の香り。守の料理久しぶりだなー。楽しみだ」


 のっそりとしつつも興味深そうにながめる。

 寿司桶に入ってる酢飯の匂いを鼻腔の奥まで吸い込むようにして、他のマグロやいか、ホタテ、卵などの具材を目を輝かせて眺める。どこか嬉しそうなウキウキしたオーラを発している。


「そうだ!」


 可憐は思い出したようにリビングに置きっぱなしの自分のボストンバッグから何かを取り出した。

 中から大吟醸と書かれた木の箱が出てくる。恐らく大きさから考えて一升瓶と思われる日本酒だ。


「ほら、酒とつまみ」


 でっかい袋を渡されて中身を覗くと地元の名産品のからすみが真空パックでどっかりと入っていた。

 

「もうお前だって大人だろ。会ったらつき合わせてやろうと思ってさ」


 僕が木の箱から出したどっしりと重い酒の瓶を持ち上げると、背後から隆二が眺めにきた。


「これはすごいですね」

「お義兄さんもイケるくち?」

「はぁ、まぁ多少なら」


 隆二の言葉に可憐の瞳が人懐っこそうに輝いた。


「じゃあ出会ったお祝いに、一緒に飲もうよ」

「姉ちゃん、いつもこんなの持ち歩いてんの?」

「ばーか、お前の誕生日が近いからだろ」

「えっ」


 僕が驚いた顔をすると可憐は急に赤くなって言い訳を始めた。


「べ、別にお前のためにわざわざ買ったわけじゃない。これは貰いもんだ。今回の指導も、事前にお前の名前聞かされてたからさ、写真見せて、間違いないって。突然会って驚かせてやろうと思ったのに、なに、お前のあの態度。いっそのこと酒飲み干してやろうかと思ったんだけどさ、からすみは父さんが持ってけって言うし、また酒買い直すのも面倒だからお前んちで飲もうと思ってさ。だから別にあたしからはなんもないよ。あたしはお前に気合を入れてやるだけだからな!」


 何も聞いてないのに、弾丸のように言葉をぶつけてくる。

 昔からそういうところ変わらない。

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