第27話 影

 車庫の前の土手に細い木の切り株が残っている。

 切ったのか、折れたのか知らないが、薄暗い冬の朝。

「クロさん…」

 そんなわけないのだが、一瞬、逝ってしまった黒猫かと思った。

 寂しいような気持のまま出勤して、考えないように残業して遅く家に帰った。


 普段より遅い帰宅、リビングに入るとチョビさんがいた。

『今日は遅いよ桜雪』

 きっと、いつもの時間にリビングへやってきて、待っていたのだろう。


 少し、ふてくされたように鳴いて僕の膝の上で丸くなる。


「クロさん、チョビさんは元気ですよ…」


 見間違えか、幻か…それでもいいか。

 窓から見える細い切り株に亡き猫の姿を映す夜。



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