第117話 近似修羅場
書類が片付いた頃にまた来ますと言い残し、オイゲン老は自分の職務室に戻って行った。
城の三階には国政に関わる各部署を置いたが、その一角にミッドランド連合王国の初代宰相に就いたオイゲンの執務室がある。数ある部屋の中でも比較的小さな部屋をオイゲン老は選んだが、これは執務室にこもる時間より広く全ての部署を回り、きめ細やかに差配したいという彼の希望によるものだったのだという。
「それにしても、話の通りに本当に王様やっているなんて、エルマーが見たらなんて言うかしらね」
オルフィリアは、クロードが執務机に座って書類相手に悪戦苦闘する姿を傍らで見ながら、呆れたように呟いた。
「農地の利用法、街道の整備案、刑罰の制定、これは都市の計画図かしら。こっちは財政の現状、食料の備蓄量……、報告書ね。ねえ、これいつ終わるの? 」
それは俺が聞きたいと言葉を返そうとした時、扉の外で押し問答する声が聞こえてきた。なんか前にも似たようなことがあった気がする。
デジャヴュというか、なんというか。
「困ります。お二人とも。まずは王から入室の許可を頂きませんと。痛い。抓らないでください。ただでさえ、先日の失踪事件で叱責を受けたばかりなのです。オイゲン様に怒られるのは私なのです。ああ、本当にどうして私の当番の時ばかり……」
扉の外の衛兵の嘆きが聞こえる。
彼には色々と迷惑をかけているようだ。
「入るわよ」
「失礼します」
扉が開くと、入ってきたのはリタとユーリア、そして若い闇エルフ族の衛兵だった。
「申し訳ありません。止めたのですが強引に」
若い闇エルフ族の衛兵が、立場がなさそうな声で報告する。
「クロード様、戻られたのならなぜ、秘書官である
「そうよ、王様。知らないでしょうけど、オイゲン爺様はクロード以外にはとっても厳しいのよ。怒られるのは私たち。すっごい説教長いんだから」
ユーリアとリタは、すごい剣幕でクロードの前に詰めよって来た。
どうやら彼女たちにもとても迷惑をかけたらしい。
「いや、なんというか、成り行きで。どこから話せばいいか、その不可抗力で」
二人の勢いに、しどろもどろになってしまう。
確かこの二人、あまり仲が良くなかった気がしたが不在中に意気投合でもしたのだろうか。文句を言うタイミングが息ぴったりだ。
「成り行きで、しかも不可抗力で新しい女連れ込んだわけ? 」
リタがジト目でオルフィリアの方を向く。
今度はオルフィリアに矛先が向かった。
「あなた、オイゲン様の話では、魔境域外のエルフ族みたいですが、クロード様とはどういう関係ですか。言いつけ通り、賓客として扱いますが、そこのところをはっきりさせておきたいのです」
普段お淑やかなユーリアまで、一体どうしてしまったのか。
二人の凄い剣幕に、オルフィリアもたじたじな様子で苦笑いを浮かべている。
「新しい女性を連れ込んだとか、そういうことでなくて。この≪魔境の森≫に来る前から、世話になっている大事な仲間だよ。本当の話」
やましいことは何もないのに、どうしてあたふたさせられているんだろう。
「彼女本人に聞いているのよ。あなたは口出ししないで」
「彼女本人に聞いているんです。あなたは口出ししないでください」
二人同時にこちらを睨むと、話す言葉まで大部分ハモッた。
恐ろしいシンクロ率。
俺、何か悪いことしたかな。
まるでドラマの浮気現場のような修羅場だ。
そして、ちっとも書類が片付かない。
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