第52話 旅の準備
南都に行くことが決まったので、その準備をする事にしました。
「必要なのは現地で売る為の商品だよね。往復の旅費を回収したいし……あっ、でも東都に戻らずに西都、北都経由でぐるりと東都に戻るルートも面白いかも」
おお、国内一周旅行とかありだよね。
地球に居た頃だと夏休みとかでもないととても無理だしお金もなかったけど、こっちの世界なら働きながら旅をできるから良いかも。
その方向でスケジュールを組んでみようかな……
「初めての長旅なんだから、無理せず一旦ウチに戻ってきなさい」
……ダメでした。
という訳で素直にお家に戻ってくるルートとなりました。
「話を戻すとして、向こうへは何を持っていこっか。本とかに出てくる行商人だと塩がハズレなしって言ってたけど、目的地はその塩の産地だしなぁ」
南都は海沿いの土地だから、間違いなく製塩をしてるだろうしねぇ。
しまったな。レイカッツ様が来た時に南都じゃ何が売れ筋か聞いておけば……あー、無理だわ。レイカッツ様は貴族だから平民が欲しがりそうな品とかわかんないよね。
「ん~、とりあえず色々長持ちしそうな品を仕入れて売ってみるかな。別に今回だけって訳でもないし、次に行く時は前回売れ筋だった品を多めにし入れる感じにすればいいだろうしさ」
他には……あっそうだ。荷物を運ぶ入れ物!
「たくさん入る魔法の袋をいくつか欲しいな」
私が持ってる魔法の袋は一個だけだし、商人として商品を運ぶなら魔法の袋はたくさんあった方が良い。
「ニャットー、出かけるから付いて来てー」
「分かったニャ」
私はお忍びモードの服に着替えると、町へと向かう。
◆
一旦商人ギルドに寄った私は、受付でちょっと裕福な平民向けのマジックアイテムを売っているお店の場所を尋ねる。
「はいはい、マジックアイテムを売っているお店ね。それだったら前の通りを……」
受付の人は私に何件ものマジックアイテムのお店を教えてくれた。
よかった、予想通り平民でも入れるお店はあったよ。
この間のお店は明らかに貴族向けだったもんなぁ。でも冒険者もマジックアイテムを買うから、平民でも行ける店は必ずあると思ったんだよね。
けど流石大きな町だけあって高価なマジックアイテムを扱うお店が沢山あるなぁ。
「ただね、あっちの通りにあるモンマク商店には入っちゃいけないよ」
しかしにこやかにお店の場所を教えてくれていた受付のお姉さんが神妙な顔で行ってはいけないお店の名前を告げる」
「何でですか?」
「あそこは詐欺商品が多いんだよ。壊れかけや偽物といった物がゴロゴロある」
「偽物はさすがに捕まりませんか?」
「その場合は壊れていたから動かなかったんだの一点張りさ。一応本物も売ってるし、そういう胡散臭い品は格安の店だからね。真っ当な客は最初から来ないとわかってんのさ。来るのは店の評判を知らないおのぼりか、物を見る芽の無いボンクラって事さ」
成程、タチの悪いパチモンショップという事だね。
「分かりました! 教えて下さってありがとうございます!」
無事マジックアイテムの店の場所を教えてもらった私は受付の人にお礼を言うとギルドを出た。
「さて、それじゃあ……」
「タチの悪い店の方に行くのニャ?」
「あれ? 分かった?」
「その顔を見れば分かるニャ。まーた碌でもない事を考えている顔ニャ」
失敬な。ナイスアイデアを考えた顔と行ってほしい。
という訳で私達はモンマク商店へとやって来た。
「すみませーん、ここって魔法の袋は売っていますか?」
「ああ、売ってるよ。どのくらいの大きさのを探してるんだい? ……って嬢ちゃんの財布で買えるもんじゃないよ。帰んな」
胡散臭い笑顔で出迎えた店主だったけど、私を見た瞬間金にならない冷やかしが来たと言いたげな態度に切り替わる。
くっくっくっ、そんな態度で良いのかなぁ?
「はい、なので壊れかけの魔法の袋を売ってください。ありますよね? 廃棄処分にするようなヤツ」
「はぁ!? マジでそんなもんが欲しいのか?」
店主はおかしな事を言い始めたと目を丸くして驚く。
「ええ。一回か二回使えればいいんで」
「まぁ、ある事はあるがおすすめしねぇぞ」
あまりにも奇妙な注文の所為で、客を騙す事も忘れて気遣う言葉をかけてくる店主。
「構いません」
「あー、ちょっと待ってろ。ほら、こいつらは騙しようのないボロキレ同然のヤツだ。売り物にならないから処分する予定だった品だ。本当にいつ壊れるか分かんねぇから返品は受け付けねぇぞ」
さらっと騙せるなら売るつもりだったという店主にちょっと驚く。
捕まるのが怖くないのかなこの人。ああいや、多分キーマ商店みたいに役人に賄賂を渡してるんだろうな。
まぁお蔭で私は格安で魔法の袋を仕入れることが出来るから聞かなかったことにしておこう。
「はい、それで構いません。えっと、これとこれとこれをお願いします」
私は大きなリュックサックを一つと中型の鞄を三つ、それに携帯のしやすい小さな袋を10個選ぶ。
「あー、これなら金貨一枚ってところだな……本当に買うのか? 金貨一枚だぞ?」
「はい、買います」
私は金貨を1枚取り出すとそれを店主に渡す。
「あー、まいどありー」
店主は知らねーぞーといいつつも、廃棄予定だったゴミが金貨に変わってホクホク顔だ。
まぁ得したのは圧倒的にこっちの方なんだけどね!
よし、後はいつも通り布と合成して修理するだけだね!
◆
せっかく街に出てきたので、魔法の袋を修理するための布を買ったら、次は売り物を見繕う為のウィンドウショッピングを行う。
魔法の袋の修理をしてからでないと荷物を持ち運べないからね。
「うーん、薬草の類は鮮度が落ちるから辞めた方がいいかな。買うならポーション系かぁ。食べ物も長持ちする物が良いから、根菜か乾物、それとも……あっ、ドライフルーツとか良いかも!」
うん、ドライフルーツなら長持ちするし水分が飛んで重量も軽いしスペースも小さくて済むから良いんじゃないかな! 南都にはない果物のドライフルーツなら売れると思う!
「量り売りなら平民のお財布でも行けると思うんだよね」
うん、これは良い考えかも!
「他には何かないかなぁ……」
◆
商店街を一通り見て回った私は、ついでとばかりにアルセルさんの工房をよる事にした。
彼の開発ペースからいってそろそろ現代マジックアイテムが2、3個出来ている筈だからだ。
というのも、南都に行くのなら、確実に高く売れる品が欲しいのも事実だからだ。
そしてこの間のオークションで私が合成した魔剣が金貨3500枚になったのなら、同じように合成した魔剣が南都で高く売れるのは間違いない。
他の商品が大外れしても、最低限魔剣の売上げで損失を取り返せば問題ないと言う考えな訳である。
うん、まぁそれなら別に南都で売る必然は無いよね……
おっといかんいかん、思考が横道にそれていた。
「こんにちわー」
私は我に返ると元気よく挨拶をしながら工房の中に入って行く。
「やぁ、いらっしゃい」
「おや、カコじゃないか」
すると意外なことに工房からアルセルさん以外の声が聞こえてきた。
「あれ? シェイラさん?」
工房に居たのはシェイラさんだった。
あっ、そうか、シェイラさんはアルセルさんに実験用の武具を届けに来る役目があったんだっけ。
「マジックアイテムを受け取りに来たついでにご挨拶に来ました」
「挨拶?」
「はい、ちょっと南都に仕入れに行くのでしばらく留守にします」
「そっか、カコは仕入れの旅に行くのか」
「はい。南都は外国の船が来るそうなので色々珍しい物を仕入れてくる予定です。なんだったらシェイラさんも一緒に行きますか?」
「嬉しいお誘いだけど遠慮するよ。私は村に戻らないといけないからね」
珍しい武具もあるだろうからと誘ってみたのだけれど、断られてしまった。
「もう帰っちゃうんですか?」
「ああ。ようやく盗まれた品が戻って来たからね」
「え? 今頃ですか?」
「盗賊団に盗まれた証拠品って事で、犯人達が全員裁かれるまで帰ってこなかったんだよ」
そうだったんだ。私の魔剣はわりとすぐ戻って来たけど、あれも私が侯爵の娘だったから配慮されての事だったんだね。
「つーわけで私は村に帰るよ。盗まれた私の作品を見せて師匠から合格を貰わないといけないしさ!」
そっか。言われてみればシェイラさんは工房の試験の途中だったもんね。
「でも村中の武具が盗まれたんですよね? 持って帰るのは大変じゃないですか?」
女の人が一人でそれだけの品を持ち帰るのは不可能だ。なんだったらお義父様に頼んで護衛を出して貰った方が良いかも。
「そこはモルワさんが協力してくれてさ。馬車と腕の立つ助手を貸してくれたんだ。まぁ向こうも村の傍の鉱山から出る鉄が目当てなんだけどね」
なる程、材料の仕入れのついでに運んでもらえるって訳か。
「寂しくなりますね」
「なぁに、一人前と認められたら私も東都にやって来るさ。あんな田舎じゃ仕事もないからね」
と、シェイラさんはおどけて言う。
「そうだ、後でカコに見せようと思ってた物があるんだ」
「私に?」
「ああ、本当なら師匠に認めてもらってから見せたかったんだけどさ。アンタは南都に行っちまうだろ?」
そう言ってシェイラさんが袋から取り出したのは一本の短剣だった。
「これって……もしかして?」
「ああ、アンタから貰った鉄で作った短剣さ」
その短剣はシンプルだけどとてもひきつけられるものが短剣だった。
「コイツはアンタのような子供でも扱える用に柄を小さめにして作った短剣だ。他にも可能な限り軽くするために刀身にフラーを入れてある」
「それだとまるで……」
「ああ、アンタが使う事を想定して作ったシロモノさ」
私が使う事を想定して……
「まぁこいつは師匠に見せる為に必要だから渡せないんだけどさ、代わりにこいつをやるよ」
そう言ってシェイラさんが袋から取り出したのは、薄紫の刀身の短剣だった。
「コイツは正真正銘アンタの為に作った短剣さ」
「あの、でもこれ……」
私は見覚えのある刀身の色に目が吸い寄せられる。
「ああそうさ。こいつはミスリルの短剣さ」
やっぱりー! これミスリルの短剣だ!
「で、でも何でミスリルで? いえ何でミスリルの短剣を!?」
だってミスリルだよ!? 普通の鉄よりも高い魔法の金属なんだよ!?
「まぁアレだ。私らの作った物が帰ってきたのもアンタのお蔭なんだろ? メイテナ様が言ってたよ、カコが命よりも大切な魔剣を囮にして犯人をおびき寄せてくれたってさ」
「え?」
命よりも大切な魔剣? 何のことです?
「しらばっくれんなよ。物凄い魔剣だったって言ってたぜ」
あ、ああー、アレの事か。
まぁ確かに魔剣を囮にはしたけど、そこまで凄い事したって訳でもなかったと思うんだけどな……
「だからさ、これを受け取って欲しいんだ。私達からのお礼の気持ちって奴さ」
「け、けどミスリルの短剣ですよ!? 物凄く貴重じゃないですか!」
シェイラさんは見習い職人だから収入は限られているうえに、自分の作品を作る為の素材代は自腹だ。
そんな見習い職人にとってミスリルは原石であっても安い買い物じゃない。
流石にそんな無理をした品を貰う訳にはいかない。
「あはは、気にしなくていいよ。そいつは私の金で作った物じゃないからね」
けれどシェイラさんはそんな心配はいらないと笑い飛ばす。
「え? それはどういう事です?」
「いやさ、そいつは私の作品を盗まれた慰謝料で作ったのさ」
「慰謝料!?」
「ああ。なんでも盗賊団の被害者には、犯人だった貴族の財産を没収して慰謝料としてみんなに渡してるって言われてさ。役人が金をくれたんだよ」
「あー、そういえばそんな話ありましたね」
そーいや私も貰ったわ。
「だから気にせず貰ってくんな。そいつはあぶく銭で作った物だからさ」
うーん、まぁ、そういう事なら貰ってもいい……のかな?
「どのみちアンタが取り返してくれなきゃ犯人も捕まらなかったんだ。遠慮なく受け取ってくれよ」
「分かりました。そういう事なら遠慮なく頂きます」
私はシェイラさんからミスリルの短剣を受け取る。
うん、これからよろしくね。新しい相棒。
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