第8話 ランチタイムはドキドキの始まり

 キーンコーンカーンコーン。


 チャイムが鳴り、やっと昼休みが始まった。


 ぐうううううぅ〜。


(腹減った〜……頭使い過ぎてもう動けねぇ……っ。キツイよー……)


 午前の授業が終わった段階で、もう体力ゲージはほとんど残っていなかった。


 特にさっきの数学の授業……後ろの凪羅がこっそり答えを教えてくれなかったらと思うと、


「…………」


 今度なにか奢るとしよう。


 というか、勉強できてギター弾けることがうらやましすぎる件について。


 そんなことを考えていると、隣の席から話が聞こえた。


「ご一緒に昼食でもいかがですか?」

「いいですわね、行きましょう」


 二人は席から立つと教室を出て行った。


 どうやら、食堂にランチを食べに行ったようだ。


 やっぱりお嬢様学校ということもあって、言葉遣ことばづかいが綺麗だな。


 ぐうううううぅ〜。


「…………」


 よしっ、俺も行くとするか。さっきからずっと空腹のサインも出ていることだし。


 食堂の場所は、先週の入学式の日に行って把握している。


 待ってろよ〜っ!


 俺が気合を入れて席から立ったところで、


「ハナっち〜♪」


 うん?


 振り返ると、凪羅がギターケースから財布を出していた。


「俺に……わっ、わたしになにか?」

「これから食堂に行くんだったら、一緒に食べようよっ!」

「え、どうしてわたしと?」

「ハナっちのこと色々知りたいからっ♪」


 まさにこれから、食堂に行こうと気合を入れたところでのお誘い。


 一緒に行く? 一人だとやっぱり寂しいし。


 でも、自分のペースで食べたい気持ちもあるんだよな……。


 ……これは、一体どうすればいいんだ?


『ハナちゃんはコクリと頷いた』


 へっ? 


 ……コクリ。


「おっ、決まりだねっ!」

「えっ、あの…――」

「ほらほら、行くよ〜っ♪」


 俺は凪羅に手を引かれて、一緒に教室を出たのだった。




 それから俺たちは食堂へとやってきた。


「さぁ〜て、なに食べよっかなー♪ ハナっちは、なに食べる?」

「そ、そう……ですね……」

「ハナっち、敬語じゃなくていいよー」

「え? で、でも……一昨日おととい会ったばかりですし……」

「うぅ~ん。じゃあ、一回あたしを塔子って呼んでみてっ」


 おいおい、それはいくらなんでもハードルが高すぎなんじゃないか?


「は~や~く~っ♪」

「……とっ、とと……塔……子………………さん」

「ああぁ、惜しい~。もうちょいっ!」

「……塔…子」

「うんうんっ、いい感じっ♪ ちょっとずつ慣れてくれればいいからっ」


 ……俺の直感だが、男女問わずモテるんだろうなぁ。


「塔子って、実は結構モテる……よね?」

「ああぁー。なぜかはわかんないんだけど、女の子から告白されることが多かったなー」

「に、人気だったんだね……」

「いやぁ~バレンタインのときとか、両手じゃ抱えきれないくらい貰っちゃってさ。持って帰るのが大変だったんだよね~」

「へ、へぇー……」


 うわぁ、これまたうらやましいことで。いいなぁー、俺もそれくらいチョコ欲しかったなー。


 そんな他愛たわいもない会話をしながら、俺は明太子クリームパスタ、凪羅はカレー(大盛り)に決まった。


 明太子クリームパスタ……前来たときに食べられなかったから、楽しみだなぁ……。


 それから待つこと、数分後。


 俺たちは、出来上がった料理が乗ったトレーを持って、空いている席に座った。


「うまそう〜っ♪」


 ドンッ、ドドンッ!!!


 お、おぅ……。


 凪羅は、目の前の大盛りのカレーを見つめてニヤッと笑みを浮かべた。


 ぱっと見て、三、四人前と言ったところか。


 昼時で腹を空かせているとはいえ、まさか全部食うつもりなのか……。


「よっしゃ、食うぞ~っ♪ いっただきっまーすっ!」


 落ち着いた雰囲気を置き去りにする大きな声を上げて、凪羅はスプーンで一口目をすくい上げると、それを口に入れた。


「熱っ、うめぇぇぇ……」


 予想していたより熱かったのか、少し涙目になりながらカレーを頬張っていた。


 美味そうに食うなぁ。


「……ん? 食べないの?」

「あっ。い、いただきます」


 俺はフォークでくるくるとパスタを巻いて、口に運んだ。


(こっ、これは……はいっ、勝ち!)


 俺は心の中でガッツポーズを決めた。


 これだよ、これっ! 濃厚なクリームとたっぷり入った明太子の味がなんとも~……っ。


「美味しそうに食べるね~」

「え?」

「あははっ、ねぇあたしにも一口ちょうだ~いっ」


 そう言って、凪羅はこちらに向かってあーんっと口を開けた。


 ………………。


 これがぞくに言う『はいっ、あ~ん♡』のシチュエーションか。


「じゃ、じゃあ……あーん」

「あーんっ♪」


 ぱくっ。


「! うま~いっ♪」


 ふっ。こんなに嬉しそうな顔が見られるのなら、『あーん』をした甲斐かいがあったな。


(さてと、こっちは二口目を食べ…――)


 何気なくフォークに目を向けたとき、ふと思った。


 このままこれを使ったら、間接キスになるじゃないか……っと。


「? どしたの?」

「!! な、なんでもないよっ!?」


 なにを慌てているんだ、俺は……っ!!?


 今は女の子同士、なにも問題はない。問題は……ない……。


 でも、うーん……。




『それから、二口目を食べるまで自問自答を繰り返すハナちゃんなのであった♪』

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