第7話 2番目の仲間:カミュー 1/3

「サラ、待ってよー!」


初めて拠点から遠く離れる事に、僕はものすごい不安を感じていた。

拠点の近くなら、ちょっとくらいモンスターにやられても、拠点に戻って寝ればすぐに治る。

多分、本来なら、『薬草』とかいう便利な道具があるはずなんだけど、現時点で僕たちの手元には無い。

ということは。

僕たちのレベルを遥かに超えるモンスターに遭遇してしまったら、一巻の終わり、ということだ。


「遅いよ、ユーキっ!チンタラ歩いてたら、モンスターが出てきちゃうでしょっ!」


拠点から離れるごとに、遭遇するモンスターは明らかに強くなっていっている。

当然、最前列で戦っているサラだって、気付いていない訳が無い。

目指す街までは、まだかなりの距離があるらしい。

まだ、視界の片隅にも入ってこないし、よくある『⇒●●街』みたいな看板さえ見当たらない。


「ねぇ、サラ。今日はいったん・・・・」


戻ろうよ。

そう言いかけた時だった。

突然のものすごい力に、僕の体が宙に舞った。


「ユーキっ!」


気付いたサラが、慌てて駆け寄って来る。


「大丈夫っ?!」

「・・・・ダメ、だと、思う・・・・」


ゲーム画面の表示でいえば、僕のHPの色はおそらく『赤』。所謂、瀕死の状態だろう。

ゲームの中だというのに、変な所までリアルに作られているらしくて、体中を襲う激痛で、僕はどうにかなりそうだった。


「ユーキっ!」


必死の形相のサラの背後に、僕を襲ったモンスターの姿が見えた。

化け物みたいにでかい、クマのようなトラのような。

おそらく、サラのレベルよりも相当上のレベル。

やられたら、ひとたまりもない。


「サラ、逃げ・・・・」


背後に気配を感じたのか、サラが振り返る。

そして。

僕を守るように、僕の上に覆い被さって来た。


「逃げ、て、サラ」

「ばかっ!」


ああ、これでこのゲームも終わりか・・・・ごめんね、サラ。こんな情けないのが主人公の『勇者』で。

ラスボスどころじゃなくて、こんな序盤でバッドエンドなんて。

まぁ僕、RPGはいつも序盤でゲームオーバーだからさ。これがいつものことなんだけど。

ほんと、ごめん。サラをこのゲームの中から出してあげることができなくて。

結局僕は、勇気の【ゆ】の字も出せなかった。

情けない・・・・


そんなことを思いながら、覚悟を決めて目を閉じた僕の頭上で。


ガキンッ!

グォォォォッ!


大きな音と咆哮が聞こえた。

だけど、覚悟していた衝撃は、一向に襲ってこない。

代わりに。


「大丈夫?」


まるで、転んだ子供にでも掛けるような軽い声が聞こえてきた。


「え・・・・は、はい。・・・・大丈夫です~」


恐る恐るといった感じでゆっくり体を起こしたサラだったけど。

僕の目の前で面白いくらいに見る見るうちに目を輝かせると、瀕死の僕の体をその場に放り出した。


「いっ・・・・」


思わずうめき声をあげる僕に構わず、サラは頬までうっすらと染めて、まるで別人みたいに可愛い顔をして、声の主を見つめている。

サラの視線の先にいたのは、僕でさえ見惚れてしまうような、超イケメン。

短く切りそろえられた金髪は、ほんの少しの風にでもフワリと浮き上がるほどにサラサラで、特徴的なのは、何と言っても切れ長の涼しげな目元。

切れ長なのに、なんだか甘さも滲んでいて、僕でさえそのイケメンぶりにうっとりしてしまいそう。

これじゃあ、あのサラが乙女みたいになってしまうのも、仕方ないかな。

おまけに、ものすごくカッコいい装備で、見た感じ、レベルもかなり高そうだし。

きっと、この人がさっきのモンスターを倒してくれたのだろう。


ありがとう、どこの誰だか分からない通りすがりのイケメンさん。

でも、僕はもうそろそろ・・・・さよなら、かな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る