第5話 お金を稼ぐって大変 1/2
セーブポイントでセーブをして、【元の世界に戻る】を選択すると現実世界に戻れる事を知ったボクは、あれから必死にセーブポイントを探してセーブし、現実世界に戻って来た。
ナビのクセに、サラが全然セーブポイントを教えてくれないから。
本当に、焦った。
どうやら、サラはボクをあまり現実世界に戻したくないらしい。
『あんたがこのゲームをクリアしないと、あたし一生、このゲームから出られないの。あのクソバ・・・・お母さんのせいで』
って言ってたから、きっとそれが理由なんだろうと思う。
でもそれって一体、どういう事なんだろう?
お母さんに、ゲームの中に閉じ込められちゃった、っていうことなのかなぁ?
普通お母さんて、そんなこと、しないよねぇ?
…ていうか、【普通の人】には、そもそもそんなことできないし。
今度、サラが機嫌が良さそうな時にでも、聞いてみようかな。
でも、なぁ・・・・
ソフトがセットされた状態のゲーム機を前に、ボクは迷っていた。
このゲームを続けるべきか、やめるべきか。
このゲームは所謂『RPG』と呼ばれるゲームだ。
ボクは何度か、パズル系のゲームやシミュレーションゲームはやったことがあるけど、RPGゲームはほとんどやったことがない。
【戦闘】が、苦手なんだ。ちょっと進むと、すぐ負けて全滅しちゃうから。一回もクリアできたことが無い。
クリアもできないゲームなんて、しかも序盤でゲームオーバーになるようなゲームなんて楽しい訳がないし、だからボクはRPGがあんまり好きではなくってやってない訳なんだけど。
それなのに、いきなり『勇者』とか言われて、仲間集めてラスボス倒せなんて言われても。
ボクにはできないよ、きっと。
「お金だって、無いしさ。お金が無いと、強い装備買えないしさ。無理じゃん、絶対」
勇気が出せるようにはなりたい。
でも。
このゲームのタイトルって【勇気が出せるようになる<かも>しれないゲーム】だから、もしかしたら、クリアしたって勇気が出せるようにならないかもしれないってことだよね?
だったら・・・・
やっぱり、やめよう。
そう思ったのに。
何故だかゲーム機の電源が勝手に入り、ゲームが開始されてしまって、気付けばボクはまた、ゲームの世界に舞い戻ってしまっていた。
「ちょっと、ユーキっ!何やってたのよっ!」
「ごめん・・・・」
サラの物凄い剣幕に、僕は思わず謝ってしまっていた。
「ほらっ。これだけあれば、当面はなんとかなるでしょ」
立ちすくむ僕に向かって、サラが何かを投げつけてきた。
それは僕の体に当たり、ジャラッという音を立てて床に落ちる。
「痛いよ、サラ。投げないでよ・・・・」
小さい声で文句を言いつつも、落ちた物を拾って中を見て、僕は驚いた。
中に入っていたのは、このゲームの世界でのお金。
しかも、結構な量。
「どうしたの、これ?!」
「ビビりなあんたの代わりに、あたしがモンスター倒して稼いでやったの!少しは感謝してよね」
「でも、サラは戦闘パーティには入らないんじゃ・・・・」
「そのはずだったんだけど」
ふてくされた様に口をとがらせて、サラは言った。
「あのクソバ・・・・お母さんが、仲間が全員集まるまでは、あたしも戦闘に参加しろって言い出したのよ。まったく・・・・参るわ、あの人の気まぐれには」
「えっ?」
「それに」
サラはそのまま、ギロリと僕を睨む。
「あんたにバックレられたら、あたし、一生このゲームから出られなくなるし。困るのよ、それじゃ!あんた、このゲームもうやめようとか、思ってたでしょっ?!」
「あ、いやあの、その・・・・」
「あたし、言ったよねぇ?死んでもクリアしろって」
ツカツカと近づいてくると、サラは僕の襟首をグイッと掴んだ。
「次やめようとか思ったら、マジ殺すよ?」
その凄まじいまでの殺意に思わず目を瞑りかけて。
僕は、気付いた。
サラの腕が、傷だらけなことに。
僕が現実世界に戻っていた間に、サラはきっと、ものすごく頑張って、たくさんのモンスターを倒して、これだけのお金を稼いでくれていたんだ。
たった、1人で。
大した装備も、まだ無いのに。
「ごめんね、サラ」
傷だらけのサラの腕をそっと外しながら、僕は言った。
「僕ちゃんと、このゲーム続ける。クリアするよ。頑張るよ」
「・・・・わわかればいいのよ、わかれば」
何故かサラは顔を赤くして、プイッと横を向いてしまった。
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