#42 初カラオケでショータイム



 文芸部でフジコさんと二人きりで対峙した翌日から、フジコさんの態度が変わりだした。



 俺の方は相変わらず挨拶だけは欠かさずしているのだが、フジコさんは悲痛な表情でこれまでの様な余裕が無くなって来ている様に見える。


 まぁ、俺が忽然とキッチリ言い渡したからな、そのせいで色々落ち込んでいるのかも。


 やり過ぎたかな?と罪悪感もあるけど、俺にとって大事なのは子猫ちゃんたちであって、文芸部では無いのだから仕方ないだろう。




「の、のののノリオくん! 今日の部活ですけど!」


「え? 今日は火曜日だから部活休みでは?」


「そ、そうでした・・・」


「・・・・」


「で、では! 以前誘って頂いた放課後デートなどどうでしょうか!」


「いえ、部活休みの火曜と木曜は先約がありますので」


「そ、そうですか・・・」



 どうしたんだろう?

 確変でも入ったのか?



 今まであれほどアプローチかけても、するりと躱され続けてたというのに、俺が強気の態度に出た途端、まるでご機嫌でも取ろうとしてるかのような態度で自分から俺を誘い始めたぞ? 


 そもそも、フジコさんの目的はなんだ?

 ラブコメ症候群とかまだ言うつもりなのか?


 その辺りが気になるところだが。

 でもなぁ、ココで甘い態度取ると、折角強気で頑張ったのに、また足元見られる気もするんだよなぁ。



 ということで、俺の方針は引き続き、一定の距離を保つことに。







 そしてこの日の放課後は、サクラさんとメグっちの3人でカラオケに行く予定だ。


 カラオケに行ったことが無いサクラさんが以前から行きたがっていて、俺も行った事が無かったからずっと後回しになっていたのを、陽キャの代名詞たるメグっちが「メグが連れて行ってあげるし! メグの歌聞いたらノリオまじ濡れ濡れだし!」と卑猥なシモネタを交えて提案してくれて、サクラさんも「メグよろしく頼む!」となった。



 で、HRが終わるとメグっちが「ノリオ、サクラちゃん待ってるから行くよ!」と声を掛けて来たので俺も帰る準備を急ぐ。


 すると、隣の席のフジコさんが


「あの!ノリオくんの先約って土田さんたちと遊ぶことですか?」


「えーっと・・・」


 放課後デートを断った手前、なんて答えようか悩もうとした瞬間


「そだよー!サクラちゃんと3人でカラオケ行くし」


 メグっちが何の躊躇いも無くバラしやがった。


「それ!私も着いて行っても良いでしょうか?」


 むむ

 フジコさんって意外としつこいんだな。

 でも残念だが、部外者が来たらメグっちやサクラさんとイチャイチャしづらいから、ココはお断り一択だ。


「おっけーだし!フジコちゃんもいっしょに盛りあがるっしょ!」



 やはりメグっちはメグっちだった。


 デリケートな問題に繊細な対応はメグっちにはムリだったか。


 そんなメグっちに恨みの籠った眼差しを向けると、(メグに任せとけ!)とでも良いたげにペコちゃんみたいに舌だしてウインクしてる。



 で、校門で待つサクラさんのところへ行こうかって教室を出ると、メグっちは俺の腕に腕絡ませてフジコさんが見てる目の前でイチャイチャと完全にカノジョモード。 フジコさんのことなど眼中に無い感じ。


 そして校門のとこでサクラさんと合流すると、今度はサクラさんが俺に腕絡ませてイチャイチャとカノジョモード。


 メグっちは先ほどまでのカノジョモードなど無かったかの様に、そして今、目の前で繰り広げられているサクラさんのトロけっぷりなど気にも留めていないかの様にフジコさんに普通に話しかけている。


 そして、そのフジコさんと言えば、目の前でイチャイチャしている俺たちや、変わり身の早いメグっちに理解が追い付いていないのか、ずっとアワアワしてる。


 まぁ仕方ないだろう。

 当事者の俺でも着いていけてないのだからな。




 4人で歩いてメグっちの行きつけのカラオケ店に向かう。


「ノリオ、カラオケ楽しみだね。 ノリオはどういう歌を歌うんだ?」


「俺は聞く専門ですよ。今日はサクラさんとメグっちの歌を聞く為だけに着いて来てるんで」


「えーそれはちょっと寂しいな。 ノリオも何か歌ってよ」


「俺の歌聞くと、サクラさん、今夜は眠れなくなるぜ?」


「ひゃぁぁぁ!聞きたい!是非聞かせてほしい! 今夜は眠らないから!」


 そう言って、ハイテンションのサクラさんが俺に抱き着き大はしゃぎ。



 歌いたくないからいつもの調子で適当に誤魔化そうとしたら、どうやら逆効果だったようだ。


 俺の主人公力も、時と場合によっては自らの首を絞めてしまうのだな。






 カラオケ店に到着すると、流石娯楽の少ない田舎。

 平日でも高校生が沢山集まっている。


 俺たち以外にも同じ高校や他校の生徒がうじゃうじゃだ。



 そんな中でも慣れているメグっちが受付を済ませて、早速カラオケルームに移動して席に着く。


 L字に並んだ椅子に、俺の左右にメグっちとサクラさんが並んで座り、フジコさんは左側で一人で座る。


 そして、メグっちはデンモクと呼ばれるリモコンをサササっと入力すると、今度は内線電話の受話器取ってポテトを注文し、そのまま受話器を耳に当てながらみんなの飲み物聞いて電話の向こうの店員さんに「以上だし!よろ!」と言って切る。


 その間1~2分だっただろう。

 そこから流れるようにマイク片手に歌い出す。 テレビか何かで聞いたことがある甘いバラードのラブソングだ。


 流石メグっち。

 一切画面を見ずに俺だけを見て歌う。

 まるで俺一人に聞かせるかのように。


 そして更になんの違和感も感じさせない様なしなやかな動きで、俺のヒザに座りマイクを持っていない左手を俺の首に回す。

 相変わらず俺の顔を見つめながら情感込めて歌い続ける。


 そして最後まで歌い終えると、俺の首に回した左手に力がこもり引き寄せられると、唇にキス。



 なんと言えば良いだろうか、このこなれた感。

 まるで、クリスマスのディナーショーでお客さんを盛り上げる演歌歌手のようだ。


 陽キャのカラオケっていつもこんな感じなんだろうか?


 そんなメグっちを見て、サクラさんは「ひゃっはぁぁぁぁ!」と大興奮。

 その喜びようはギャップ萌えなどでは無く、ただの世紀末のモブの様だった。


 おい、どうした我が校きっての模範生、テンション上がり過ぎてキャラ崩壊してるぞ? やれやれだぜ。


 そしてフジコさんはというと、何やら必死にメモを取っている様だ。

 その形相は、かつてメインヒロイン候補と呼ばれた面影は無く、目を血走らせてちょっと怖いくらいだったから、俺は見なかったことにした。




 その後、最初にメグっちのパフォーマンスを見てこれが普通だと勘違いしてしまったサクラさんも毎回歌う際は俺のヒザに座って歌い、何故かフジコさんも俺のヒザに座って歌うことをメグっちたちに強要されていた。


 因みにだが、どうしてもとお願いされて俺は1曲だけ歌った。


 俺の歌を聞いたメグっちとサクラさんは、しっとりとしたバラードだと言うのにノリノリで合いの手を入れ続け、歌い終えると「もう我慢出来ない!今すぐ抱いて!イエェェェェイ!」って超ハイテンションで叫びながら抱き着いてキスされた。 そしてフジコさんだけ号泣してた。 俺の歌った歌に悲しい思い出でもあったのかな。


 っていうか、俺の歌聞いてみんな感動して目がハートになる情景をイメージしてたんだがな。反応がなんか違ったぜ。 



 結局、サクラさんは初カラオケを大満足で終えて、フジコさんは何しに着いて来たのかよく解らない結果となった。



 カラオケ店の外に出ると、フジコさんとはそこで別れて、俺とメグっちはサクラさんを家まで送ってから帰った。



 帰り道、メグっちが言うには


「フジコちゃん、多分ノリオのこと好きになってるよ。 でも本人は煮えきらない感じだし、思いっきり揺さぶりかけようと思ってカラオケ着いてくるのおkしたんだし」


「そうなのか??? ちょっと前まで俺がいくら口説き文句囁いても全くそんな気見えなかったぞ?」


「う~ん、ノリオ、フジコちゃんに結構キツイこと言って拒絶したんでしょ?」


「うん、昨日ね」


「それで今まで無自覚だった気持ちに気付いたんじゃね?」


「そんなことあるの?」


「よく言うじゃん? 押してダメなら引いてみろって。 ノリオの行動が正にそうだし、それでフジコちゃんにも心境の変化とかあったんじゃね?」


「なるほどなぁ、流石陽キャのメグっち。 女の子の気持ちはよく解るんだな」


「まぁ、明日からフジコちゃんの態度がどうかわるかだねー」



 そんな話をしながら、メグっちと手を繋いで歩いて帰った。




 家に帰るとお腹を空かせたクルミに散々文句を言われて怒られたので、カラオケで歌ったバラードでクルミの気持ちを和ませようとアカペラで歌ったら、クルミは更に激怒した。 



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