#17.5 メインヒロインと呼ばれたクラスメイトの裏の顔
ノリオくんは、今日は入部の勧誘と顔合わせだけが目的だった為、用が済んだら早々に帰って貰った。
実はこの学校の部活動は、本当は部員数の決まりなど無く、ノリオくんが入部しなくても廃部の危機は無い。
私と顧問の火野先生で一芝居打ったのだ。
では、何故ノリオくんを文芸部にスカウトしたのか。
それは、私たち文芸部がノリオくんに纏わるある事象について調査を進めることになったからだ。
その事象を私たちは”ラブコメ症候群”と呼んでいる。
これを文芸部の裏の活動として、調査・観察し、そして出来る事ならこれ以上の被害を防ぎたい。 その活動の一環としてノリオくんを捕獲した。というのが実際の話。
ラブコメ症候群
その症状を説明すると、男性の場合は、自らを主人公やモブキャラだと思い込み、そして周囲の女性をヒロインだと思い込んで、まるでラノベのラブコメの様な言動を振舞い始める。 症状は細かく分類され、ハーレム系、難聴系、鈍感系、俺様系、勇者に寝取られ系等々その症状は様々だ。
女性の場合は、自らをヒロインだと思い込み、男性同様にラブコメのヒロインの様な言動となる。 その分類としては、幼馴染系、妹or姉系、義理母系、年上ショタ系、悪役令嬢系、文系に理系等々。 因みに文系は、図書室を主な活動の場とするためそう呼ばれ、理系は恋愛に関するバイオリズムを解析しようとやたらと理屈っぽくて面倒臭い人が多いからそう呼んでいる。
つまり、いまノリオくんはラブコメ症候群を発症していると私たちは考えている。
最初に気が付いたのは、私だった。
隣の席であるノリオくんが、朝の挨拶がてらに私に向かって「今日も美しい君の笑顔が眩しいよ」と言いだしたことが切欠だった。
最初はギャグかなにかかと思った。
だけど、ノリオくんのはギャグじゃなかった。
毎朝毎朝必ず私に向かって甘い言葉を投げかけてくるのだ。
更に決め手になったのは、土田メグさんとのやり取り。
ノリオくんは幼馴染である土田さんを「自分に惚れているから自分が他の女性と仲良くすると焼き餅を焼く」と決めつけて、土田さんに対して焼き餅を焼くことを止めるように注意したりするのだ。
初めてこの光景を目の当たりにしたときの衝撃は、今でも強烈に記憶に残っている。
まぁ、土田さんがノリオくんに実際に惚れているのは本当のことなんだけどね。
だからと言って、それを決めつけて、焼き餅焼くなと言う男性はそうは居ないでしょう。 こういうところが典型的なラブコメ症候群の症状だと考えられる。
それからの私は、ラブコメ症候群を発症していると思われるノリオくんに興味を持ち、密かに彼を観察し続けて来た。
そして、私はノリオくんの事を担任であり文芸部の顧問でもある火野先生にも相談した。
何せ、火野先生も私同様に、ノリオくんにヒロインだと認定されているからだ。
火野先生は私以上にノリオくんの言動に振り回されていて、ラブコメ症候群の被害者だと言っても過言では無いと思う。
そして相談の結果、文芸部のみんなにも協力を仰ぐことになった。
私たちは、まずノリオくん自身とヒロインと認定されている周囲の女性たちを調査することから始めた。
ノリオくんにヒロインだと認定されている女子は現時点で4名いた。
まずその筆頭が、土田メグさん。ノリオくんも土田さんを「最強幼馴染」と呼び、いつも一緒に行動している。 家も隣で、なんとお風呂にも一緒に入ったりするそうだ。スクール水着を着て来たのもノリオくんの指示だったらしい。つまりノリオくんの願いなら何でも聞いてしまうくらいの好意を持っているということ。
普通ここまでの仲なら”もう付き合えよ”ってなるのだけど、そうはならないのがラブコメ症候群の恐ろしいところ。
次に、3年の木田サクラさん。 つい最近まで、ノリオくんが一方的にヒロインだと決めつけているだけだと油断していたら、なんと木田先輩からもアプローチが始まったのだ。 今の所まだ確定では無いけど、恐らくノリオくんのラブコメ症候群が二次感染したのでは無いかと考えている。今日だって自分のことをヒロインだとはっきり言っていたし。
そして、先ほども説明した、担任の火野キョウコ先生。 言わずもがな、私たちのクラスではノリオくんと火野先生によるラブコメ漫才が日常茶飯事となっている。 火野先生は認めないが、火野先生も実は二次感染者では無いかと私は睨んでいる。
最後がこの私、月野フジコ。 ノリオくん曰く「メインヒロイン候補」らしい。 何を持ってそう思っているのかは不明だけど、彼にとって私は、主人公と釣り合う素質があるとのことだ。
そして、何故ここまで具体的に細かく把握出来ているのか。
実は私には、ノリオくんの身内に協力者がいる。
その協力者から情報を得ているのだ。
彼女もまたラブコメ症候群の被害者と言える。
何せ、実の妹なのに兄であるノリオくんから、「兄に好意を持ち、兄が他の女性と仲良くするとスネる」と決めつけられているから。 妹が兄に恋愛感情を持つなんて、ラノベの中だけのファンタジーだというのに。
もうその考え方だけでも重度のラブコメ症候群であることが伺える。
そして今日、火野先生の強引な勧誘で、無事にノリオくんを確保することが出来た。
今まで私の話に半信半疑だった文芸部のメンバーも、今日のファーストコンタクトがかなりショッキングだった様だ。
「あれ、ギャグじゃなくて素で言ってるんだよねー? すごいねー」
「自分で主人公って言ってましたね」
「部長のこともヒロインって」
「そうなの。 でもあれでもまだ大人しい方でしたよ。ウチのクラスではもっと凄いですから。 今日のお昼なんて3年の木田先輩が来てて、修羅場でしたからね」
こうして私たち文芸部は、水元ノリオという自称主人公の男と関わりを深めて行くことになった。
そう
私はノリオくんを調査し研究する女。 Dr.フジコ。
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