バケツ

バシャ....ッガン..

髪の毛が水で滴っている。夏の生ぬるい風が私の湿った頬を撫でる。


黒い影がこちらに近づいてきた。

メイだ....

「ひずみちゃん、大丈夫?びしょびしょだねえ....メイがふいてあげるねえ。」

荒い網目の小汚い布。...雑巾.....。

嫌な匂いがする。

「とーっても綺麗になったね!じゃあね!」

顔が生臭い...細かい埃が顔に張り付く。


最近毎日子の繰り返し。

メイは私に無視されたのが悔しかったのか、毎日嫌がらせをするようになった。小さな家来たちを連れて。



___最初は今となっては生やさしいものだった。筆箱の中のものが毎日一つずつ消えていった。消しゴム、鉛筆、定規....どこかに忘れてきてしまったのかもしれないなんて思ったけれどそんなに毎日なくなるわけがない。.....誰かに盗まれてる?でも、人気のキャラクターのものでもないし特に誰かが羨むようなものではないはずなのに....


___誰かが私を困らせようとしてる?

そう考えると納得がいく。私が亡くなったものを探すたびにくすくすと薄気味悪い笑みを浮かべている集団がいた。....メイだ....。



気づいたのはいいもののずっと筆箱を持っているわけにもいかない。対策のしようもなく、毎日毎日鉛筆は消えていった。母は毎日のように新しい鉛筆を卸す私を不思議そうにみていたが、私は子のことを母に告げるつもりはなかった。こんなことをいちいち気にして悔やんでなんかいたら彼女の思う壺だ。



その何も気にしていないかのような態度が彼女は気に食わないのだろう。どんどん嫌がらせは酷なものへと変わっていった。鉛筆はノートになった。ノートは上履きになった。どんどん進化を遂げた結果、私のランドセルは校舎の裏庭の池に沈められ、毎日バケツの水を被り、雑巾で顔を拭かれる。


クラスメイトはもちろん、担任も見て見ぬふりをした。今やメイは皇女のようだった。彼女はクラスの頂点であり、学年の頂点。表面は1000年に一度の美少女、聞き分けの良い心優しいいい子。そんな優遇の子と、聞き分けの悪い、めんどくさい迷惑な子。



どっちの肩を世間が持つかは千差万別だった。1vs世間全体の世界で戦っていくしかなかった。





_______そしてそれが固定化されるのに時間は掛からなかった。

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少数派 巫 歪 @root56nico

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