敵
「おはようございます。」
誰にも聞こえないぐらいの小さい声でつぶやく。
教室にはもう15、6人の生徒が登校していた。騒ぎ声が廊下まで響いている。
ん?なんで私が入ってきたらみんな黙るんだ?
「ちょっと巫さん!」
高めのツインテールに切長な吊り目、人気キャラクターのプリントTシャツ。フリルのついたスカート。なんかツインテールの位置高すぎてゴ○ブリの触覚みたいだな。
って、誰だおめえ。
「何?」
わざと不機嫌そうな声を出す。こうするとちょっと相手に威圧感を与えられることを母に教えてもらった。
身長が低くて童顔の私からそんな声が出るとは思わなかったんだろう。ゴ○ブリはどきっとしたような顔をしている。怯んで言葉が出ないのか、黙り込んでいる。
「っ、ちょっと待ちなさいよ!」
さっき黙ったじゃないか。私になんの用だこのゴ○ブリ。
「あんた昨日、メイちゃんのこと泣かせたでしょ!最っ低!メイちゃんあんたに怒られたっていってすごい泣いてたのよ!なんてかわいそうなのかしら!ね!みんなそう思うよね!ね!」
ちらりとメイの方を見てみる。
ニヤリと意地の悪そうな顔で私を見ていた。
なんだあいつ。みんなあいつのどこが可愛いってんだ。
「あの子が誘ってもないのに勝手に私の横に座ってきて不愉快だったから逃げたの。私は怒ってもないし、泣かせてもない。被害妄想で勝手に怒られたと勘違いして勝手に泣いたんでしょ。」
「っ、なっ、何よヒガイモーソーって!そういう変な言葉使うからメイちゃん困って泣いたのよ!意味わかんない!」
おいおい、被害妄想も知らないのか。これじゃ一緒に例えられるゴ○ブリがかわいそうだよ。
「あと私に何か用ある?」
「意味わかんない!意味わかんない!」
...なさそうなのでスルーして私は席についた。
言い負かされて悔しかったのか、ゴ○ブリはキーっと甲高い声出して叫んでいる。朝から変なのに絡まれちゃった。
お?なんか机の上に書かれてるなんだこれ?
__ばーか!○ね!ブサイク!
どこまでも面倒な奴らだな。
それにしてもテレビのニュースキャスターも子供のボキャブラリーが低下してるっていってたけど本当だな。
私の方を見てメイを囲む女の子たちがくすくす笑っている。
これを見て私が悲しむとでも思ったんだろうか。
私はこんなことで凹むほど浅はかな人間じゃないぞ。そこのチンパンジー共。
こんなの、私にとっては何の苦でもなかった。
____この時までは。
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