#7 「天使」×「コタツ」×「最速の幼女」=「ラブコメ」
「哀れなる人の子よ、私はあなたに救いをもたらしに来ました」
コタツに入っていると、部屋に天使が降りてきた。急に部屋に天使が降りてきたのでびっくりしたが、それよりも大事なことがあるので、一先ずそれを言明しておいた。
「そこ、みかん踏んでるぞ」
「あっこれは失礼しました」
天使はおもむろにコタツから降りて、俺の横に座りなおした。
「いや冷静すぎませんか? 普通もっと驚きませんか?」
「おにーちゃんみかんむいてー」
「よし、任せろ」
コタツの向こう側から声がかかったので、踏まれていないみかんを手に取って向き始める。声の主は従妹の早苗、今年で小学2年生なのだが非常に可愛い。可愛い。
「救いをもたらしに来たって言ってるんですよもう少し興味を持ちませんか。みかんむいてる場合じゃないんですよ。みかんの白い筋よりこっちを見なさい人の子」
やたら押しが強い天使だ。みかんを向き終わったので早苗に渡して天使に向き直ると、天使は胸を張って語り始めた。向かいでは早苗がみかんを頬張っている。可愛い。
「いいですか人の子。あなたは端的に言ってモテませんね。非モテですね」
ナチュラルに失礼なことを言われた。
「そんなあなたに嬉しいお知らせです。この度、あなたは天界幸運くじの二等賞に当選しました。景品はこちらキューピッドの矢、意中の人を意のままに恋に落とせる優れものなのです。これをわざわざ私が届けに来たという訳です。感謝してもよろしいのですよ?」
そう言って一本の矢を手渡してくる。矢じりにハートの意匠があしらってあって、なんだかいかにもキューピッドの矢といった感じだ。
「何も突き刺す必要はありません。これを相手に触れさせながら思いを伝えることで、相手はあなたに夢中になるといった寸法です。さあ誰に使うかはあなたの自由、お好きに使っていいのですよ」
成程、確かに弓を射る技量はないし他人を突き刺すのも忍びない。これは助かる。少し悩んだが、使い道はすぐに思いついたので、早速。
「じゃあ早苗これ触って」
「うん、いいよー」
「待ってください」
即座にストップがかかった。
「何かおかしかったか?」
「お話聞いていましたか? 確かに効果は万能ですが、使えるのは一回きりですよ?」
「安心してくれ、浮気する気はない」
天使は頭痛からか眉間を揉んでいる。早苗は頬を赤く染めている。可愛い。
「ええまあ、あなたが一途であることには納得しましょう。非モテですし」
「非モテ言いすぎだろ」
「だとしても! 彼女は親族、しかも10歳でしょう!?」
そう叫んで天使は早苗にびしりと人差し指を突き付ける。人を指さすのはよくない。
「従妹は四親等だから結婚できるぞ。年齢はどうしようもないけど、そのくらい待つさ」
「おにーちゃん、素敵」
早苗が目をキラキラさせている。可愛い。その横で天使は頭を抱え始めた。
「何ですかロリコンですか、流石に許されませんよそんなの。主に私が、神様に許されません」
とうとう市場を持ち込み始めた天使を憐みの目で見ながら、早苗に矢を手渡そうとする。まるで結婚式のリング交換のような恭しさで差し出したそれを、天使が物凄い形相で吹っ飛ばす。見事なトゥキックだ。
「ええ駄目です、駄目ですとも。不健全な恋愛などこの天使の目が黒いうちは絶対に許しません。大人しく同級生とか幼馴染とか部活の後輩とか生徒会の先輩とかそういう人に使ってもらいますよ!」
「そうか、天使ってのも大変なんだな。確かにそこまで苦労掛けるのも忍びないし」
天使がパッと目を輝かせる。ああよかった、面倒事が起きずに済みそうだという心情が溢れんばかりに顔に出ている。うん、やっぱり思いやりは大事だな。
「流石に10歳に使うのはやめるよ。あと5年大事に取っておく」
「まってるわ、おにーちゃん」
「畜生! 諦めないつもりじゃないですかあ!」
家の中に、天使の叫び声が木霊した。
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