きょうかい

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 あちこちに竜がいるので、人間同士の大規模戦闘をすることが難しい。もし、まちがえて竜に攻撃が当たれば、竜は群れを呼んで、無差別に人間へ攻撃を開始して、町を焼く。事実に、竜と人間の歴史のなかで、人は幾千もの町を焼かれた。そして、この世界には竜はあちこちにいる。戦争をして、まちがえ竜に攻撃が当たる可能性は高い。そうなれば、人間同士の戦争ごと焼かれる。

 ただ、ここ数年、竜に対抗する新しい手段がみつかった。けれど、それもそれで、難易度がきわめて高いし、やはり、竜に対する対処法として、値段も高くつく。そのため、竜払いの需要は、まだ尽きることはなさそうだった。

 とはいえ、だらかといって、竜払いが、素晴らしい報酬を受け取れるわけでもない。

 報酬を受けるのは、各地の大陸にある、竜払い協会に申請する。たいてい、受け取りたい日の一週間前までに申請すれば、その日までこなした依頼の報酬のだいたいは受け取れる。大陸をまたいだ依頼を受けていた場合は、もっとかかる。確認に時間をとるからだった。

 いずれにしても、申請して数日かかる可能性が高いため、協会のある町に数日滞在することが多い。町に大きな協会がある場合、竜払いに用に大部屋もあったりする。

 地元の竜払いが住処かの勢いで滞在していることがあるため、そこはあまり泊まらないようにしている。おれのような、旅の竜払いを、よく思っていないこともある。

 けれど、今日は協会の宿舎に泊まる。ひとり部屋を用意された。

 夕食どきになって、部屋の戸が叩かれた。あけると協会の人がいた。目鼻立ちのはっきりした顔に、眼鏡をかけた若い女性職員だった。

「夕食を、ご一緒いただけませんか」言って、彼女は目を見て「ヨルさん」と、名前を呼んだ。

「ええ」

 うなずき、部屋を出た。

 眼鏡の彼女の後を追う。会話はしなかった。

 協会を出て、夜の町を歩き、やがて、古びた建物のなかに入る。なかは、食堂だった。

 眼鏡の女性が受付に「お願い」と言うと、二階の個室へ通される。

 食台に、蝋燭も灯された。

「なにかお嫌いなものはありますか」

 顔を左右にふってみせると、彼女は部屋へ案内した店員に、小さく頭をさげた。相手もそれだけでわかるらしく、言ってしまう。

「ありがとう」

 と、彼女はいってから、はじめた。

「ここから東です。領土の境界をめぐり、両国で不穏な動きがあると、噂が」

 あくまで噂ばなしとして話す。

「そうですか」

「これを」

 彼女は一枚の紙を差しだし、それを受けとった。そこには、現時点で、この大陸で確認されている大きな竜の各自位置が記されていた。

「かなり点在してますね」

「あなたになら、可能だと」

 彼女が見つめて来た。

「七匹くらいですかね」と、聞きながら「竜を払います」そう言う言い方をした。

「お願いします」

「はい」

 答えながら、目で伝える。

 東の方へ向け、竜を払います。

 竜がいれば、人間は安易に地上を戦場化できない。竜に攻撃があたれば、竜を怒らせる。

 けれど、それはあくまでも、またまた、竜を払ったら、そちらへ竜が逃げたという話。

 狙い通りの方へ竜が行くように竜を払うことは、かんたんではない。

 それに、この協会からの特別な依頼は、一握りの竜払いにしかされない。

 払った竜を狙った場所へ逃げるように仕向け、配置する依頼だった。

 狙った場所に竜を移動させることにより、人間同士の争いをなるべく防ぐ。

 真実、各大陸の竜払いの協会は、そのための機能として存在している部分がある。これは表向きには、開示されていない仕組みだった。

 そして、おれは、時折り、この特別な依頼のために、いろんな大陸から呼ばれる。

 とはいえ、それは、一年くらいまえからに過ぎない。けれど、協会は遥な昔からこれやってきた。わずかな竜払いしか知らないことだし、他言は決してしない。

「来ましたよ」

 声をかけられ、紙をしまう。料理が運ばれて来た。どれも美味そうなものばかりだった。盛り付けも綺麗だった。

 すると、彼女は眼鏡を外して、置いた。

 それから、

「やったあ」

 と、言って子どもみたいに笑った。

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