第四章 王宮にて

第一話


 ――結局のところ。王子の『友人』の件はすぐに頷く事は出来なかった。


 何せキュリオス王子はこの国の王子だ。もちろん「恐れ多い」というところもあったけれど、やはりそれ以上に『攻略キャラクター』という点が大きかったのだが……。


「お嬢様。キュリオス殿下からお手紙が届いております」

「ありがとう。リア」


 ただ『友人』とまではいかなくとも「文通仲間」にはなったらしく、手紙の数は目に見えて増えたと思う。


 その内容は普通の「近況報告」というよりも「魔法」についての相談が多かった様にも感じる。


「?」


 いつもの様に手紙を広げたのだけれど、ふとその手紙に少しの違和感を持った。


「……」


 その違和感を抱きつつ手紙を読み進めると──。


 どうやら今回もごくごく普通の「日常」が書かれているらしく、また「魔法の勉強」についても書かれていた。


「……コレが普通の貴族たちの文通の内容なのかしら?」


 アリアが王子の『友人』の件を保留にしている事もあり、今のアリアとキュリオス王子の関係に名前をあえて付けるなら「文通仲間」くらいでしかない。


 ただ正直、この世界で貴族たちがしている『文通』の内容がどういったモノなのかは全く分からないし、検討もつかない。


 それに、キュリオス王子は「王族」でアリアは貴族と言っても「男爵」という立ち位置。


 単純に「近況報告と言ってもそう何でもかんでも手紙に書くワケにいかないのだろう」とは思っているから深く追及するつもりもないけれど……。


 でも、それを考えると「王子、ないし高い位の人は話すのも書くのも考えなくちゃいけないのだか本当に大変なんだろうな」とアリアは送られてくる手紙を見ながらたまにそう思う事があった。


「さて……」


 それはそれとして、せっかく手紙をもらっておきながら返事をしないのはものすごく無礼だ。そこでアリアは「早速手紙の返事をしなくては」と早速ペンを取ると……。


「あれ?」


 ふと下の方をよく見ると、手紙の下の部分がキレイに折り曲げられている事に気がついた。


「ああ。だからか」


 どうやらそのせいで便箋の大きさか通常よりも少し小さかった。


 どうやらそれが違和感の正体だったのだろう。


「うーん?」


 しかし、普通に下の部分を触ろうとしてもそもそも触れない。


「……」


 こうしているところを見ると「わざわざそうしているという事は何か意味があるのだろう」という事はすぐに分かった。


 ──どうしたものか。


 そう思いながら眺めていると、その便箋は「魔法で止められている」という事に気がついた。


「ああ。なるほど、こうか」


 しかし、それは普通の人が見たくらいでは分からない程のごく少量の魔力が込められている様だ。


「……うん、なるほど」


 ただこんな器用な芸当、とても魔法を学び始めたばかりの人に出来るモノではない。


 一般的に「魔法と言えば」で連想されるのは「出力」などの威力や規模の大きさだろう。


 しかし、実際は少し違う。


 本当の意味で「魔法が使える」と言うのは、この出力や規模に加えて魔法の出力の調整がキチンと出来て初めてそう言えるのだ。


 だから「魔法のコントロール」が未熟なアリアは本当の意味ではまだまだ発展途上なのである。


「それにしても……」


 キュリオス王子がこんな回りくどいやり方で手紙を書くのは珍しい。


 これではまるで……。


「隠してある部分を誰にも見せたくないって言っている様なモノじゃない」


 そうアリアは一人で呟きながらもう一度そっと手紙に触れながら空いているもう片方の手で指を軽く「パチン」と鳴らす。


 コレがアリアの「魔法解除」の方法だ。


 本当に難しい長い呪文の詠唱が施されている様な魔法ならともかく、この程度の薄い魔法であれば簡単に解ける。


 しかし、それはアリアにだからこそ出来る芸当ではあるのだが……。


「……」


 そんな時、ふとこの間アリアが部屋を留守にしていた時の事を思い出した。


 この部屋にはアリアが小さい頃に亡くなった祖母からもらった大事なブローチが入った宝石箱があったのだが、それを知った母親がちょうどアリアが部屋にいない事を良いことに勝手に開けて持って行こうとしていた事があったのだ。


 ──結局、開きもしなかった……どころか動きもしなかったのだけれど。


 実は宝石箱には細工がされおり、その仕組みを知っているごく一部の人間にしか動かせない。


 いつもであれば呆れてモノも言えないところだけれど、それ以上にあの時の母親の顔があまりに必死で……。


「フフ」


 アリア自身は軽く指を鳴らせば開けられるが故に声を出して笑いたくなった。まぁ、当然そんな事はしていないのだけど。

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