第四話


「――ごめん。遅くなった」


 キュリオス王子が慌てた様子でアリアたちがいる部屋に現れたのはアリアが思っていた以上にすぐだった。


「い、いえ。全然」


 その為、アリアはキュリオス王子が言うほど待ってはいない。むしろそこまで慌てさせてしまって申し訳ないと思う程だ。


「いや、君は何も言わなくていいよ。むしろこっちが勝手に時間を指定したのに待たせてしまって」


 本当に悪いと思っているのか、キュリオス王子の謝罪は止まらない。


「だっ、大丈夫です。それよりも、その。大丈夫なのですか? 私がここにいて」


 ここは話題を変えるべきだろうとアリアはサラリとキュリオス王子に尋ねる。


「うん? ああ、大丈夫だよ。僕が呼んだんだし。本当なら君が来る頃にはこの部屋にいられるはずだったんだけど……お父様に呼び止められちゃってね」

「あ、そうだったんですね」


 アリアがそう言うと、キュリオス王子は「うん」と答える。


「まぁ、お父様も僕が急いでいるのは分かったみたいだからちょっとした立ち話程度だったんだけど」

「そ、そうだったんですか?」

「うん。僕の姿を見たからちょっと声をかけたかったみたい。いつもお父様は忙しくて朝食ぐらいでしか顔を合わせないから」

「そう……なんですね」


 確かに、一国の主ともなれば毎日忙しいのは当たり前だ。むしろ朝食だけでも一緒に取れるだけでもいい方なのかも知れない。


「……」


 そんな事を考えていると、キュリオス王子はふとアリアを見つめる。


「?」


 突然見つめられてアリアは思わずドキッとしたけれど、それ以上にキュリオス王子の目が青くてキレイで……緊張よりもそちらの方に目を奪われた。


「……君。やっぱり少し変わっているよね」

「え」

「なんて言えば良いのかな。君はあまり自分の話をしないで僕の話を聞いてくれる。なんと言うか、一人の……僕の中を見ようとしている……そんな気がするね」

「え! あ、すみません!」


 キュリオス王子の指摘にアリアはすぐに謝った。


「別にいいよ。ただ、僕の知っている貴族の令嬢たちとは違うんだなって言いたかっただけだから」

「そう……ですか」


「うん」


 キュリオス王子曰く、貴族の令嬢たち全員とは言わないモノの、基本的に自分の家の自慢話をする方たちが大半なのだと言う。


「でもそれって自分の手柄じゃなく、あくまで親や先人の方たちの功績であって、自分の功績じゃないけどね」

「……」


 そう言って笑うキュリオス王子の笑顔の奥に少し黒い部分がアリアには見えたような気がした。


「でも、今日は僕の話じゃなくて君の話を聞きたいと思った。だから手紙を書いたんだけど……自分でも随分とズルいやり方をしたなって言う自覚はあるんだよね」


 そう言ってキュリオス王子はいたずらっ子の様に笑う。


「ズルい……ですか」

「うん。だって君は男爵で僕はこの国の王子。当然断る事なんて出来ないという事は分かっていた。分かってはいたんだけど……」

「だけど?」

「誰よりも早く君と話さないと……って思った」

「……それは、あの状況を見たから……ですか」


 ここでアリアの言った「あの状況」とは固まった貴族たちの事だ。


「うん、そうだね」

「……」


 素直に答える王子に対し、アリアは「やっぱり」と思った。


「それに、もっと驚いたのは君が立ち去った後に彼らはすぐに動けるようになったってところだね」

「……」


 そうキュリオス王子が説明したところで……アリアは無言ではあったモノの、内心「それもばっちり見られていたってワケね」と思っていた。

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