第二話


 返事はアリアが思っているよりも随分と早く来た。そして、今回も手紙の裏にキチンと王宮の印も付いている。


 アリアとしてはもっと遅く来るものだと思っていたし、それこそ「やっぱり何かの手違いで……」という事で返事が来ない想定すら考えていた。


「さすがにそれはなかったか」


 そもそも最初の手紙もキュリオス王子からだったので、内心「それはないか」と心のどこかではそう思っていたのも確かだ。


 ちなみに、アリアが前世でプレイしていた乙女ゲームの中では主人公と攻略キャラクターは文通する事が出来……というより「しなければならない」仕様になっていた。


 しかも、返事次第ではゲームに大きく関わってくる『親愛度』も変化するほど重要なモノだった。


 こうした「攻略キャラクターとの文通」はゲームによってはただの「おまけ」程度でしかないモノが多いのだが、このゲームではかなりの比重を占めていた。


 それこそ、返事の内容を間違えたり遅くなってしまったりすると場合によっては『親愛度』がガクッと落ちてしまうのだ。


 しかも「返事が遅くなってしまう」とストーリーの進行度具合によっては取り返しがつかない状態まで『親愛度』が下がってしまう。


 要するにそれだけ「返事が遅くなる」という事は相手に悪い印象を与えてしまう……という事の様だ。


 だからプレイヤーはそれを避けるために、一日の始まりに「手紙のチェック」と「返事を書く」を自然とする様になる……というより、なってしまう。


 一応デッドラインギリギリになると「手紙の返事、書いたっけ?」など文言も出るのだが、これが出た時点で『親愛度』が落ちるのはほぼ確定している。


 しかもこの忠告も無視をすると、突然攻略キャラクターに声をかけられる。


 その内容は「どうして返事を書いてくれないの?」といったモノなのだが、その時の態度はキャラクターによって様々だ。


 中でも多い反応は「寂しそう」とか「悲しそう」といったところで、他にも「呆れる」キャラクターもいる。


 どちらにしても、この世界での『文通』はこの重要な行動の一つである事には違いない。


「……」


 でも、ゲームじゃなくても普通に手紙が来れば内容はどうであれ返事をするのが当たり前だろう。


 しかし、この世界には前世の頃では当たり前だったスマホなどの便利な電子機器などは存在していない。


 そうなれば必然的にこちらも「手紙」で返すしかない。


 それに元から男爵家であるアリアには選択肢のない手紙だ。


 だから決まりきった返事を書いて出来る限りお待たせしない様にしたはず……だったのだが。


「……え」


 その手紙を開けて見るや否やアリアはその内容に思わず固まってしまった。


「どうかされましたか」


 突然固まってしまったアリアに対し、リアは思わず声をかける。


「あ。う、うん。大丈夫よ……うん」

「そう……ですか」


 アリアはハッとしてリアの声に反応し、リアも深くは追求しなかったけれど、内心はその手紙の内容を見てものすごく冷や汗をかいていた。

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