第三章 お誘いにて
第一話
いつもと変わらぬ朝。雲一つない快晴……まではいかないモノの外は晴れ渡っている。
「……」
「……」
しかし、そんな天気とは打って変わってこちらには無言のまま神妙な面持ちの二人――。
その内の一人はアリアで、もう一人はメイドの『リア』だった。
「……」
アリアの手元には王族の印が付いている手紙。コレはつい先ほどリアからもらったモノなのだが……。
どうして自分にコレが届いたのか……心当たりが全くない。
「どっ、どうして私宛に手紙が?」
試しにリアに尋ねたモノの……当然そんな事をメイドのリアが知るはずもなく、無言のまま首を大きく左右に振った。
まぁアリアもそんな事は分かっている。
しかし、頭の中で分かってはいても、やはりどうしても聞かずにはいられなかった……というのが本音だ。
「やっぱり。知らない……よね」
ちなみに、アリアが王宮で催されたお茶会に行って早くも一週間が過ぎようとしている。
だが、アリアとしては「王宮に行っても特に何か大きな変化はなかった」と思っていた矢先にこの手紙が届いたのだ。
その内容は「またお茶会をするつもり」という事と「そのお茶会に是非来て欲しい」といった事が書かれている。
「……」
あのお茶会自体は最初こそあの失礼な使用人によって出端を挫かれ、その後は人に囲まれて……などなど多少のハプニングはあった。
しかし、その後は大きなトラブルもなく比較的穏やかに過ごせたはずだ。
「――お会いになられるのですか?」
「……そうね」
本当であればこんな面倒事になりそうな匂いがぷんぷんするお誘いには極力関わりたくない。
それに、この世界が乙女ゲームだという事はほぼ確定だとすれば……ここはやはり「攻略キャラクターには関わらない方が賢明だろう」と思っている。
しかし──。
「この手紙の送り主はキュリオス王子。さすがに王族の方のお誘いを無下には出来ないでしょ。お母様にも口酸っぱく言われているし」
アリアの家が公爵家くらいの地位にいれば「断る」という選択肢もあったかも知れない。ただ、仮に断るとしてもかなり言葉を慎重に選んで……という形にはなったとは思うが。
しかし、アリアの家の位は「男爵」で、その男爵の中でも地位は低い。そんな彼女に王族の誘いを「断る」なんて到底は出来ないし、そもそもそんな選択肢自体が存在していないだろう。
「はぁ」
しかも、実はお母様にこの手紙を既に見られてしまっている。そして、この手紙を見るや否やすぐに返事をする様にアリアに迫ってきた。
でもまぁ、いつものお母様であればこの反応は当然と言えば当然な反応だとはアリアも思っている。
なぜなら「使えない、役立たず」だと思っていたアリアが王族と関わりを持てるチャンスを運んできたのだから。
「――気乗りしませんか」
「まぁ、うん。正直……ね」
このメイドのリアはお茶会が終わった後に決まったアリアにとって初めての専属のメイドだ。
基本的に愛想がないところはあるけど、仕事はキチンとこなすし、思った事をズバズバと物事を言う割にメイド長から感じる威圧感を全然感じない。
「……」
アリアとしては、リアのテキパキと仕事をこなすその姿はまさしく前世で言うところの「仕事人」を連想させ、むしろ感動すらしてしまう。
「あんまりお待たせするワケにもいかないし、サッサと書いてしまいますか……って」
アリアがそう言い終わるか終わらないかのタイミングで……リアは「お嬢様」とアリアに声をかけ、紙とペンが置かれた机のイスを引いて既に待機していた。
――本当に出来たメイドである。
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