第20話:学歴が評価される社会 ③-1

しかし、当時は周囲からの嫌がらせや暴力などいじめを受けていたこともあり、自分の中で「どのように気持ちを持っていくべきなのか?」という疑問が脳内をグルグルと駆け巡っていた。


 そして、学業と並行して自分の考えをまとめてみることやネットなどでどういう物が社会から必要とされていて、どういうデザインが好まれるのか?などをいろいろと調べることで物作りに興味が強くなっていった。しかし、当時は寮生活をしていたため、規則正しい生活を求められる事もあり、思ったほど物事が円滑には進まなかった。


 その後、大学生になり、本格的に起業に向けて準備を始めたが、それまで考えていた構想案がことごとく商標登録や特許出願・取得などで惨敗し、思うようにいかなくなったため、個人で出来る事を模索し始めていた。つまり、私の場合は興味を持ってからすでに十数年程度が経っているという計算になる。


 私はその人の判断を社会全体で尊重し、その人の判断したことを実行出来るように配慮することや同じ判断をした人がその人と繋がりやすい社会構造の構築などを企業や国、自治体などが積極的に整備し、その人が追っている夢を応援することも教育の一環だと思っているし、その夢を叶える為に必要な事は何なのかを教えることも教育だと思っている。


 今の社会において“相互的価値観の尊重”が不十分になってしまい、代わりに“社会的価値観の尊重”がマジョリティ(多数派)化していることがお互いを誹謗中傷する事に繋がるだけでなく、多様性を理解する機会を自ら奪っている事に気が付かないケースも多い。


 特に、子供の場合は善悪の判断は出来たとしてもその基準が社会的価値観に基づいた判断である事が多く、個人的価値観を持たないもしくは持てない子供が増えていってしまうことになるため、将来的に自分の意見を持たない大人になることで周囲に流されやすくなってしまう懸念があるのだ。これが今の日本における最重要課題の1つであると私は感じている。


 そもそも、若い年代が当たり障りのない事しか言えなくなっているかというと一概には言えないが、“どうせ自分が何を言っても誰も興味を持って聞いてくれない”・“どうせ自分が意見しても年上の人たちの話しか聞いてくれない”などこれまで若年層に対するアプローチが不十分だったことの裏返しなのかもしれない。そして、意見を言ったとしても相当数で寄って集って潰しに掛かるなど自分が正しいと思って動いている人がかなり多いのが現状として露呈しているように感じる。


 そして、立場の上の人も“昔作った杵柄‘(きねづか)”のように過去の実績を全面に出すことで自分の精神面を保っていると思うしか無いだろう。


 このように人というのは習慣が出来上がってしまうとその習慣が正しいと思い、どんどんその習慣を周囲に誇示していくことで自分の気持ちを安定させ、周囲に対する強要がエスカレートしていく傾向にある。


 もちろん、その考え方は“本人”にとっては正解であっても“相手”からすると実際に考えたことも行動したこともないため、正解なのか間違っているのかを判断する事が出来ない。特にこれらが子供に対して行われているのなら“強要されている”と子供から判断されても致し方ない。ただ、子供にも一定程度善し悪しを教えていかなくてはいけないため、教える際の線引きの判断が難しくなっている現状がある。


 そして、現代の子供たちは私が子供の頃よりも嫌な事や何かされることに対してかなり過敏でかつ判断基準がかなり複雑になってきている傾向がある。


 その理由として“両親の過保護・過干渉”などもあるが、1番はニュースなどで“下校途中の子供に声かけ事案”や“いじめで自殺未遂”など子供を持つ親にとってかなり衝撃的でかつ自分の子供がされた時の事を想像してしまうことも要因の1つだと思う。そして、自分の子供に起きたことではないが、年齢が近い子が被害に遭っていると子供を守らなくてはいけないという“使命感”が芽生えてしまう事に繋がっている。


 その結果、子供にその考え方が伝染し、トラブルが起きたときに大人が“問題ない”と判断されることも、子供は“問題あり”と捉えてしまう事が多いのだ。


 このように大人は所属している組織などの規則に則って物事を判断するが、子供は親など組織外の大人に教えてもらったことを基に判断するため、そこに双方のズレが起きることで話し合いなどが平行線になる事や自分の主張をしても取り合ってもらえないなど行動を起こしたとしても長期化する可能性が高くなっていくのだ。


 ここで注目すべきは“社会と組織内における認識格差の問題”だろう。これは地域間においても異なるだろうし、同じ組織でも場所が違うと考え方も捉え方も異なってくるため共通項が少なくなることが懸念される。


 例えば、“○○さんが○○さんにいじめられている”という相談を受けたときにすぐに動く組織もあるが、経過観察としてすぐに動かない組織もある。そのため、前者の場合は問題が起きてからすぐに何らかのアクションを起こすため、いじめがエスカレートする可能性が後者に比べるとかなり低く抑えられる。そして、その相談が全体に共有される速度も速いため、初期段階できちんと監視体制を整えることが出来て、適正な判断をする事が出来るようになるのだ。

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