第12話泉の精霊
鳥の甲高い鳴き声がよく響く森の中にとある泉がある。
不思議なことにその泉の周りだけあまり木々が生えていなく、その代わり美しい草花の草原が広がっていた。
その泉は緑豊かな木々、草花が周りに生えている。
水は物を映す性質がある。
豊かな緑は木漏れ日の光が合わさると宝石のように鮮やかで燦然とした翡翠色の輝く光で泉は己の面を化粧をしていた。
元々持っている清らかな美しさにさらに磨きがかかる。
泉の定義的に川の源泉として水が湧き出ているわけではないが、見た目を表現するのに泉が一番合っている。
向こうには小さな崖とそこから落ちる滝がエメラルドの泉に波を打っていた。
滝の水飛沫で泉の周辺は木々が生える森と気温が一段階冷やされていた。
人というのは何か動く物に反応をする。
意識してようが、してなかろうがとも反応をする。
この神秘的で触れる事が不可能で遠い場所にあるような空間を、波という唯一の変化があり、そちらに目が行く。
それ故、波は確固として確かにそこにあると悟ってしまう存在力が付与される。
そんな、淡く静寂閑雅としつつ、趣のある空間に青空のような涼しさを染み渡らせていた。
そして人というのはルアザのことである。
そのすぐ隣に
ルアザはこの刺激のない空間のせいか穏やかな特に特徴があるわけでもない無表情だった。
ただし、目と手だけは違った。
一見、目は顔と同じく優しく穏やかだが、奥の方を見ると、鋭く集中しており、何かを待っているかのような油断のない目だった。
手に持っているのは釣竿だった。
ルアザは今、戦っている。
釣竿と釣針を武器に魚という大きな獲物を。
今壮絶な駆け引きが行われている。
何もしてないが、ルアザは今か今かとアクションを今起こすべきかと悩んでいた。
魚が餌を着けた針を断続的に細かくつついているからだ。
その細かな振動が糸から竿へと手全体にしっかり波を伝える。
そのか弱く、虫の羽音のような振動が、強力で、大鳥の翼のように力強い振動へと変わる。
それに合わせてルアザの薄暗かった目に光を取り戻す。
それは、眩しいほどの光度を放つ、明けの太陽のように希望満ちた光を。
「来た! 来た! 来た!」
ルアザはこの衝動とも言うべき興奮を抑え、勢いよく引き上げるのを止め、確実に釣れ上げれるように、慎重かつ素早く引き上げる。
そして、水飛沫と小さな波紋を生み出しながら、魚のが釣り上げる。
「よし! 良いサイズだ!」
ルアザは釣り上げた魚を掴み、魚の大きなに満足な笑みを浮かべる。
針を外し、泉の一角に張ってある結界に穴を開け、そこに今さっき釣れた魚を放り込む。
結界内を何事もなかったように魚は泳いでいく。
「もう十分に貯まったし、そろそろ帰るか。それにまだ色々と準備があるし」
そう言い、結果内に一つと衝撃が走り、中に生きている魚は突如暴れだし木漏れ日があたることにより煌めく水飛沫を上げ水面を跳ね回る。
感電した魚は気絶し、死んだ魚のように水面に浮き上がってくる。
浮いた魚を取り、回収して帰ろうとするとき傍らに置いてある
そして
「ノォォォォォォ!!」
ルアザは魚達を自分でもわからない方向に投げ飛ばし、焦燥の声色一色の叫びを上げながら腕を水底へと沈みこむ
それでも
だが、それでも届かなく、体半身さえも入れてようとするとき、
「もがぁ!?」
突拍子もない事態にルアザは驚き、水中に顔を浸けていたルアザは口から多くの泡を吐き出してしまう。
「プハぁ! 消えた……!」
ルアザはその現実を疑うように何度も
ルアザの視界に写るのはただの、土と砂、そしてそこに生えた藻などで作られた綺麗な水底だった。
ルアザは何度もその水面を見ていると、近くに新たな波紋が生まれることに気づく。
その波紋を生み出す中心点となる場所に視線を向けると、泉の水できた繊維状の何かに覆われた正体不明な何かが盛り上がってくる。
それを見たルアザは、
そして、地面を蹴りその場から大きく下がる。
同時に結界で作られてた剣を手に持ち、泉から出てくる正体をしかと、見極めるためにどんな動きも逃さないように見詰める。
そして、どんな動きにも対応できるように力場の剣を構え警戒をする。
そして水に色と質感らしき物を付けながら泉から湧き出る物が全貌を現す。
そこから出てきたのは鮮やかな美貌を持つ女性だった。
ただ、足首より下は泉の水と一体化しているが。
ルアザは美しい女性らしき者が出てきても、何一つも警戒を緩めず剣先を一層鋭く向ける。
精霊だから性別が基本的にないため、女性であるかも怪しい。
正体自体はルアザは一つの本が頭の中の図書館から抜き出される。
その本によれば、正体は精霊、妖精だろうと予測していた。
最初は〈
「……私は泉の精霊。貴方が落としたのはこの……」
精霊は少し厳粛さが含まれた優しげな声でルアザに語りかけてくる。
だが、ルアザ警戒の糸を緩めず、言葉が増えるごとに一層多くの糸を張り巡らせる。
「……」
「……そんなに警戒しないで。私は敵じゃないよ」
精霊は困ったような表情を浮かべながら、ルアザを親しげに呼ぶ。
「……(いや、無理だろ)」
ルアザの視点から見れば、突如現れた得たいの知れない精霊らしき者が、警戒を解けと、言われ素直に警戒を解くはずがない。
とにかくルアザが欲しいのはこの存在は安全なのか?、ということだ。
「大丈夫。私は君に危害を加えないよ」
「………………………………………………………証拠がありません……」
「今日祭りの日でしょ。その祭られる精霊だよ」
「精霊様に無礼極まりないことをしてしまい、申し訳ありませんでした。愚かな私を許してください。私が出来ることならば何でもしますので(や、ヤバい! やらかした!)」
ルアザはその白い顔を青く変えながら、結界の剣を消してすぐに頭を下げる。
祭りの目的は精霊に安心安全を提供してもらうこと。
つまり、こちらの行動で精霊が何か気分を害してしまい安心安全を提供ストップされ、今までの暮らしが崩れ去る可能性がある。
精霊というのは気まぐれすぎる存在だどんな行動をするかわからない。
「アハハハ、大丈夫、大丈夫。その程度で、怒らないよ。だから頭を上げてくれない?」
「……ご温情ありがとうございます」
ルアザは許されるまでの間、背中に冷や汗を垂らしながら生きた心地がしなかった。
自分のせいで、これまでの長閑で暖かい平和な毎日を壊してしまうところだったからだ。
母親とクラウを巻き込んで今までの暮らしをこの手で破壊するなど、罪悪感で心が永遠に終わらない拷問をされるようなものだ。
しかも、拷問官は己自身。
「じゃあ、話を続けよう。ほら、こっちに来て」
精霊は手招きをしてルアザを自分の側へと誘う。
ルアザもその誘い通りに先ほど釣りをしていた泉の縁まで歩み行く。
ルアザは正直、精霊の言葉を完全には信用していない。
だが、ルアザは精霊に怯えているのを隠すように、顔の筋肉に力を入れ、雰囲気から悟らせないように胸を少し張っていた。
「ごほんっ! 私は泉の精霊。貴方が落としたのはこの金の竪琴ですか? それとも銀の竪琴ですか?」
一つ咳払いしたあと、精霊が出現したときのように厳粛だが優しげな声を話す。
「……いや、金でも銀でもありません。主に木できた
精霊の手のひらから生み出されたのは、弦以外が耀く黄色い金でできた竪琴と同じように煌めく銀の竪琴だった。
その派手な竪琴を見たルアザはこう思った。
「お前持ってんだろ。茶番はやめて速く返せ」
そんなこと口には絶対出せないため、精霊のやっていることに乗っている。
精霊はそんなルアザの心境など知らずにニコリと笑みを浮かべる。
「……貴方は正直者ですね。褒美にこの金と銀の竪琴、そして貴方が持つ本来の竪琴をあげましょう」
そう言い、どこからともなくルアザの竪琴が出てきて、ルアザの竪琴を中心に3つの竪琴がフワフワと浮いてルアザの目の前に置かれる。
その中の自分の竪琴だけを手に取り、脇に抱え回収する。
「そんな豪華な物は受け取れません。私のだけで十分です。それに、わざわざこちらのミスで落とした物を回収してくださり誠にありがとうございます。では、またいつかお会いしましょう」
そう言って、ルアザは精霊にもう一度頭を下げ、すぐ側に落ちていた魚達を素早く拾い、砂や草がついていたから、それらを水に浸けて払い早足で帰って行く。
「ちょ、ちょっと待って!」
精霊は先程までの優しげな顔色を変え、帰ろうとするルアザを慌てて肩を引っ張る。
「うわっ!」
水辺が近いせいで地面が柔らかく、慌てて強く引っ張ったからルアザは地面を踏み込めず、そのままバランスを崩してしまう。
ルアザは泉に落ちると確信した瞬間、持っている
竪琴や魚達を視線の向こうへと放り投げる。
どちらも水中へと落とすのはまずい物だからだ。
もしかしたら、また消えるかもしれない。
精霊もさらに慌てて、手を引っ込んでしまいそれがすでに倒れているルアザの肩へと引っ掛かり倒れる速度がさらに加速させる。
後ろへとバランスを崩して倒れるルアザはそのまま泉の中へと背中から盛大に水飛沫を上げながら落ちてしまう。
「はぁ……!」
ルアザは呆れたため息を吐きながら水面から顔を出し岸へと腕を置く。
そして、足を上げて水を含んて重くなった体を引き上げる。
首辺りで結びまとめていた髪がほどけ、全身が濡れてしまい、水をし垂らせ萎んで花弁の部分が地面へと向かい広がっている花のようだった。
「ご、ごめんね! 決してわざとじゃないの」
「……いや、大丈夫です。これはただの事故ですから」
ルアザは服にたっぷりと含まれた水分を出すため、服を捻り絞りながら、精霊の謝罪を受ける。
「で、何か用ですか?」
ルアザの胸中は身を凍えらせる雨が降りそうな雲が一面に広がっていたが、表はいつも通りに晴れた口調で喋る。
季節は冬だが。
「この金と銀の竪琴、本当にいらない?」
精霊は二つの竪琴をルアザにもう一度差し出す。
「結構です。本当に自分のだけで十分ですから」
「じゃあ、せめて一回くらい、弾いてみて。それで気に入ったらもらうというのは、どう?」
「……じゃあ、少し」
ルアザは少し、困ったような表情を浮かべ、二つの竪琴を受けとる。
(重すぎる)
ルアザは二つの竪琴を手に持つと、その重さに腕が若干下がる。
金属は重い、それが金や銀となれば重いのは確かだ。
特に金は。
それでも重いため、その場で尻を地面につけて座りながら弾くことにした。
まずこの時点でルアザは欲しくないと思った。
最初は派手で少し良いなと思ったが、重すぎて実用性が悪い方にも重いため不要な物だと判断した。
そして、弦を軽く弾いて、
「せっかくのご厚意に悪いですけど、やっぱり結構です。竪琴自体は良かったです。もう少し軽くしてもらうと良くなると思います」
出る音自体は良かったが、やはり実用性という点がかなり悪いため、使いづらいと感じた。
慣れば良質な竪琴だが、ルアザの使う竪琴は使い回しが良い竪琴である。
それに加え、今使っている竪琴は長く使っているため愛着があり満足しているため不要だ。
「そう、残念。自信作だったんだけどね」
「では、用事がありますので、さよなら」
そう、言い残しルアザは家へと向かい帰っていく。
そして、ルアザの姿は森の中に隠れ、消えていく。
「失敗だらけだったな」
精霊はルアザを泉へと落としてしまったのは猛反省する。
背中側だったため、顔は見えなかったが、手の中にある草を握り潰していたため相当な怒りを覚えていただろうな、と予想する。
「夫と喧嘩してここまできたけど、こんなところに人がいたとは」
詳細は省くが精霊は今日この辺りに来たばかりだ。
そして、この泉に溶け込み微睡みながら一休みしているときに、竪琴を弾いている音が聞こえた。
精霊はその見事な演奏に聞き入れ込み、感動する。
それに、その演奏者は珍しい見た目をしていた。
演奏者は無色の体を持つ者であり、精霊もこれまでの長い人生を生きてほんの数人しか見たことがなかった。
興味が引かれるのは必然だ。
だから、精霊はどこかで聞いたことのあるお話を再現してみた。
「今日はたしか、あのガルト地方のお祭り
今日祭りだと知っているのは精霊の力であればすぐにわかることである。
「そうだ。今夜、あの子の家へと行ってみましょう。せっかくだから何か手土産を持っていこうかしら」
そう、笑みを浮かべ体を水へと変え、変わった水は重力に従い泉の中へと音を立てて落ちていく。
そして泉の周りの草原に風が一つ吹き、草花を凪いでいき。
花の一部は風に拐われ、風が向かった深い森の中へと共につれ拐われる。
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