24.作戦会議
「まず、私達はどうすればいい?」
三人を助け出すためには……と考えても、今までそういうことを経験したことがないから、対策が思い浮かばない。
でも、ミルドさんならある程度の案は考えていそうだから、まずは彼の意見を聞いてみることにした。
「……そうだな。まず、目的を明確に記そう。最優先するのは三人の救出。方法は様々ある」
『一番楽なのは武力行使だが、それはダメだ。最悪、この街に被害が及ぶ』
「その通りだ。……となれば、後は交渉だが」
『不可能だろう。人間どもが魔物の話を聞くとは思えない』
人間の国からやって来た騎士達は、クロ達の話を一切聞かずに斬りかかって来たと聞いている。そんな人達が、今更話を聞くとは思えない。
もしかしたら最初は笑顔を見せてくるかもしれない。
でも、腹の中では相手を油断させて、隙を突いて捕らえて解剖しようとする人間も居る。ってミルドさんは言った。だから、たとえ友好的に見えても簡単に油断するのは危険だ。
最悪、こっちが嫌な思いをするだけになる可能性だってあるんだ。
……それはダメ。
誰かが苦しむなら、魔物は戦うことを選ぶ。
でも、ここで人間と戦ったら面倒なことになる。
配下の魔物達なら付いて来てくれると思うけど、人間の三人は仲間ではあるけど正確には違う。これ以上、面倒事に巻き込むわけにはいかない。
「そう言うと思った。……そこで俺は、三人の脱出を提案する」
「だっしゅつ……?」
「そうだ。俺達が脱出の手引きをして、三人を街から出す。ただし、これはバレたらいけない。そうすればこの街に被害が及ぶだろう」
ミルドさんの目が語る。
──それでもやるか? と。
「やる。三人が助かって、この街に被害が出ない可能性が少しでもあるなら、やる」
「即答か。──よしっ! それじゃあ作戦会議と行こう」
ミルドさんはパシッと両手を合わせて、気持ちを引き締めたようだ。
「これは三人が捕らわれている建物の見取り図だ」
小さい袋から出てきたのは、私が両手を伸ばしたくらいの大きさがある一枚の用紙だった。
「…………ん? この袋が気になるのか?」
「それ、収納袋?」
「これを知ってんのか。あの三人から聞いたのか?」
「……うん。私も、同じものを持っているから。真っ赤な棺桶。三人に預けた。……知らない?」
「不気味な棺桶のことか! 最初は吸血鬼でも入ってんのかと思ったが……そうかクレア殿は吸血鬼だったのか」
「あれは私の血で出来ている。なんでも入るから、荷物運びに貸していた」
「……吸血鬼にとって棺桶は大切なものだと聞いた。なるほど。だからあの二匹は、棺桶から絶対に離れようとしなかったんだな」
ミルドさんの話から、私の棺桶はシュリとロームが持っているとわかった。
二匹とも、ちゃんと私との約束を守ってくれたんだ。嬉しい。
「っと、話が逸れたな。なぁ、クロ殿。そっちで隠密行動が得意な奴は居るか?」
『クロでいい。こちらもミルドと呼ぶ。……こちらには一匹だけだ。だが、実力はそこらの人間と同じだと考えないでもらいたい』
「それって……ラルク?」
『正解だ。我が主』
「……うん。ラルクはこの街で一番そういうの得意。信頼してる」
「クレア殿とクロの推薦なら、安心して仕事を任せられるな」
『呼びましたか?』
「うおぁっ!?」
急に聞こえてきた第三者の声に、ミルドさんはすっごく驚いていた。
「あ、ラルクだ。おはよう」
『おはようございます、クレア様。面会の途中申し訳ありません。先程、俺の名前が呼ばれた気がしたのですが……』
「ちょうど呼びたいと思っていたの。このまま一緒にお話聞いてくれる?」
『かしこまりました。失礼します』
影から頭だけをヌルリと覗かせたラルクは、これまたヌルリと全身を出して私の隣に移動した。
「ミルドさん、紹介する。……ブラッドフェンリルのラルク。今回の作戦の力になる」
「はぁ〜、ブラッドフェンリ──フェンリル!? 神話級の魔物じゃねぇか! なんでこんなところに居んだよ!」
「…………?」
その神話級というのが何の基準で決められているのか知らないけど、そのフェンリルなら、うちに四匹いる。みんな、良い子。
「クロも、シュリも、ロームも、元はフェンリルだよ?」
「お、おう……」
そう言うと、すっごい微妙な顔をされた。
「えぇと、それで、ブラッドってのは……」
「私と契約したら、この街の魔物、黒くなっちゃった」
「吸血鬼って、やばいな」
「安心して。多分、これができるの、私だけ」
「……そうか。それならあんし……安心できるのか?」
「安心して」
「お、おう……わかった」
グッと親指を立てても、ミルドさんの表情は変わらなかった。
……何がダメなんだろう?
「ま、まずは作戦について話をしよう。話はその後だ」
「話をして、またお話するの?」
『主……そこはあまり突っ込まないでやってくれ』
『この人間の気持ちは、少しわかります』
「…………?」
私は首をかしげる。
わかっていないのは、私だけみたい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます