22.初めて知ったこと


 すぐに連れて来ると言い、クロは私の部屋を出て行った。


 誰が来ているのかは、教えてくれなかった。

 実際に会って話した方が早いって、どういう意味なんだろう?


 クロはいつも、私に事細かに説明をしてくれた。

 なのに、どうして今回に限って言葉を濁したんだろう?


 ……わからない。


 でも、クロは私に嘘は言わない。

 だから会うと決めた。クロが大丈夫だと判断したなら、私に害は無いはずだから。


『──主。客人をお連れした』

「ん、入って」


 クロに連れられて入ってきたのは、ちょっとボロボロなマントを身に纏った──


「人間……?」


 その姿は、人間にしか見えなかった。

 魔力を調べてみても、魔物のように濃厚な魔力は感じられない。


 血の匂いも……魔物じゃない。

 私がいつも飲んでいる、香ばしい匂いが、その客人から漂う。


 やっぱり、人だ。


「どうして人間が、ここに?」

「──お初にお目にかかる。魔物の主よ」


 人間は目元まで隠していたフードを取り、綺麗なお辞儀をした。


 渋い声。年齢も、多分40代くらい……?

 片目は何か鋭いもので切り裂かれていて、それが古傷になって残っている。……それに片足の生気が感じられない。多分、義足なのかな?


 なんか、厳ついおじさんという印象……。


「俺の名前はミルド。ノーマンダル王国、自由連合組合のギルドマスターをしている。……今日は急な訪問にも関わらず、面会を許可していただき、誠に感謝する」

「……私は、クレア。この街の、ここの魔物達の長をしている。それで、どうして人間がこの街に来たの?」

「今回は俺のギルドに所属している……いや、していた、か。ゴールド達『鷹の鉤爪』の件で話がしたい」




 ゴールド。

 ……ゴールド。

 …………うーん?



「………………だれ?」

「えっ?」

「ゴールド……だれ? クロ、知り合い?」

『主、あの元冒険者の三人のことだ。ゴールドはそのリーダーの名前だ。ちなみに細身の男がギードで、女がトロネだ』

「おおっ……初めて知った」


 あの三人、そんな名前だったんだ。

 いつも『人間さん』とか『冒険者の三人』とかで話が通じていたから、名前を聞くのを忘れていた。


 ゴールド、ギード、トロネ。

 ……うん。覚えた。多分。


「──コホンッ。話を進めてもいいだろうか?」

「うん。問題ない。ちゃんと覚えた」

「…………そうか。それは、その……よかったな」


 ミルドさんの視線が優しくなった。

 クロからも、同じような視線を感じる。


 ……どうしてだろう?


「俺は、あの三人にこの街の場所を教えてもらったんだ」

「…………この街のことは、絶対に内緒って約束したはず。でも、裏切った……とは思えない」


 彼らがもし裏切ったのなら、今頃この街は人間との争いが起きているはずだ。

 魔物達は急な来訪者に戸惑っているだけで、いつもと変わらず平和に暮らしている。争いは起きていない。


 でも、三人がミルドさんに教えたのは事実。

 だって、実際に彼はここに居るんだから。


 ミルドさんは、ギルドマスターって言っていた。


 冒険者はギルドに所属しているって聞いた。ギルドマスターはそこの最高責任者だから、ゴールド達の上司ってことなのかな?


 でも信頼しているから教えたというのも、違うと思う。

 何はともあれ、彼だけにこの街のことを教えるのはおかしい。


 ということは────


「あの三人に、何かあった?」


 ミルドさんは頷く。

 嫌な予想が当たってしまった。


「まずはあいつらに変わり、謝罪させてほしい。クレア殿との約束を違えてしまい、申し訳ない」

「それは、別にいい。それをするしか無かったんだと思うから。……それに、ミルドさんは一人で来た。だからその言葉を信用するし、害があると判断すれば殺して隠蔽すれば、何も問題は、ない」


 私達を殺そうと思っているなら、単独では来ない。

 ミルドさんが一人で来たのは、そういう思惑は無いという証明だと思うし、だからこその覚悟だと思ったから、私は彼の言葉を信じることにした。


 それでも本性を隠す人間は居るだろうから、怪しいと判断した瞬間、殺すけど。


「……さらっと恐ろしいことを言う。流石は魔物の主と言ったところか」

「野蛮だと思われるかもしれない。でも、みんなを守るためだから、許してほしい」

「…………そう、だな。すまん、話を脱線させた。本題に入ろう」


 姿勢を正すミルドさん。


 次に何を言われるのかは、予想が付く。

 それでも彼が発する真剣な雰囲気が肌をピリつかせ、私は生唾を飲み込んだ。


「ゴールド達は王国騎士によって、その身柄を拘束された。……どうか彼らを、助けてやってほしい」

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