21.不安に呑まれる


 三人(と二匹)が街を出てから、一週間が経った……多分。


 私はいつも眠っているし、正確な時間はわからない。

 でも、目を覚ますのは週に一回という周期があるから、多分一週間が経っているんだと思う。


「……まだ、みんなは帰ってこない?」

『そうだな。まだ掛かるだろう』

「…………そう」

『シュリもロームも居る。問題が起こっても上手く切り抜けるだろう。だから大丈夫だ』

「うん」


 それでも、やっぱり心配する。

 最近、あまり寝付けていない。眠ることはできるんだけど、夢の中でもみんなの心配をして、色々なことを考えちゃって、快眠とは言えない。


「みんな、早く帰ってきて……」

『……そうだな』


 私の呟きに、クロは同意してくれた。

 シュリとロームは当然だけど、あの三人も、もう私達の仲間だ。

 街を出た仲間達を心配するのは当たり前で、クロの報告を聞くと、他の魔物達もどこかそわそわしていて、落ち着きがないらしい。


 みんな、心配している。

 仲間を失うのは、悲しいから。


 それは魔物もよく理解している。

 ずっと昔から人間達に、理不尽に狩られてきた魔物だから、仲間を思いやる心は強くて……そこに種族なんて関係ない。ゴブリンも、オークも、ワーウルフも、フェンリルも、私も、みんな……この街で住む命のことを仲間だと思ってくれている。


 だから、早く帰ってきてほしい。


「眠って、次に起きたら……みんな帰ってきてる、かな?」

『ああ、きっと……そうだろうな』


 ──だから、もう寝るといい。

 クロはそう言って、私を包み込んでくれた。


「……ぅ、ん……」


 その温もりが気持ちよくて、私はまた微睡みに身を委ねる。


 次に起きたら、みんながそこに居てくれますように。

 そう願って、私は瞼を閉じた。




          ◆◇◆




 でも、次に起きた時も、その次も……みんなは帰らなかった。


 そろそろ帰ってきてくれてもいい頃だと思う。

 なのに、全然帰ってこない。


 ──おかしいと、私は思い始める。


 あの三人が拠点にしていた場所は、馬車ではそんなに時間がかからないと言っていた。

 遅くても一週間が経過するとして、用事と往復時間を合わせても、三週間くらいが経った今、まだ戻らないのはおかしい。


「ねぇ、クロ……どうしてみんな、まだ戻らないの?」

『我もわからない。……だが、流石に遅いな』


 みんなが帰ってこないことに、クロも疑問を持つようになっていた。


 それはクロだけじゃない。

 街の魔物達も、おかしいと気づき始めている。


 不安を感じている感情が、私の方にも逆流して流れてきて、私はもっと心配になってしまう。


 もしかしたら──と、嫌な考えが脳裏をよぎった。

 でも、それだけは絶対に無いと、首を振ってその考えを否定する。


 ──大丈夫。

 ────大丈夫。


 シュリとロームが居るんだもん。

 ちょっと道草を食っているだけで、帰るのが遅れちゃっているだけ。


 そう思い込むようにしても、ふとした時、とても不安になる。


「クロ……」

『大丈夫だ、我が主……もう少し待ってみよう』

「…………うん……」


 何かあったとしても、私達は簡単に行動できない。

 下手に行動して人間の国を敵に回すと、この街が危ない。


 理解はしている。

 でも、脳がそれを認めたくない。

 今すぐにでも、みんなを探しに行ってもらいたい。

 危険だとわかっていても、みんなの無事を知りたい。


 私が、できることは…………


 歯を食い縛る。

 仲間が危険に曝されているかもしれないのに、私は何もできない。


 こうやって、みんなの帰りを信じて待っていることしかできない。


「何もできない自分が、悔しい」

『主……、……大丈夫だ。どうか主は、皆の帰りを待っていてあげてくれ』

「でも、」

『あいつらを信じてやってくれ』

「…………うん、わかった……」


 信じる。

 それも必要なことだと思う。


『ありがとう……すまない』


 クロの身体に包まれる。

 ふさふさの毛並みは、いつも私を夢の中へと誘う。


「お願いクロ……みんなを、おねがい」


 そして私は、また深い眠りについた。




          ◆◇◆




「私に、会いたい……?」


 みんなは、まだ帰ってこない。

 それが続いた日のこと。私と面会をしたいと、誰かが申し出たとの報告をクロから受けた。


「…………だれ?」

『会った方が、話は早いだろう』


 私と契約した魔物相手なら、別に構わなかった。

 ……でも、クロの様子からは、なんか違う気がした。


 私に会いたいのは、この街の魔物じゃない?

 それじゃあ、傘下に加わりたい他の魔物なのかな?


 正直、今は誰とも会いたくない。

 みんながまだ戻っていない今、心配する方が強くて、誰と会っても集中できないと思う。


 クロだって、それをわかっているはずだ。

 なのに面会希望があると私に報告をしてきた。


 ……折角会いに来てくれたのに、こっちの用事で帰すのは可哀想。

 クロもそう思って、私に報告したのかな?


「わかった。会う」


 だから私は、面会希望者と会うことにした。

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